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好きに願えばいいじゃないか。
願うだけならタダだし誰も損しないよ?
どっちかというと、カウコの顔だと
何を願うのが妥当なのか興味あるけどね。
[帽子を被る仕草についからかう口調になってしまう]
生かす意味……気付かないだろうね、あの調子だと。
正直、あれだけやりたくて仕方がない
「殺し」の意味にも気付いてないんじゃないかって思うよ。
……そういえば。
イェンニは妙にトゥーリッキを慕っていたようだけど。
もし死んだら、理解できるモンなのかねえ。
[不意に零れた疑問が口から*洩れた*]
………そうですか。
[耳に入ったものを想い小さく呟いて、いつかと同じように礼を籠めた眼差しを向け扉を潜る。がつん―――蹴り下ろされるティッピングレバーに跳ね上がり、半ば反射的にしがみ付くと、勢い余り回る車輪にカウコへ受け渡した血を流す傷口の残る指を取られた]
………っ
[ぱたた―――傷口が開き、溶けぬ雪の上に赤黒い血が落ち、振り落とされ雪に塗れ転がる。カラカラカラ…―――車輪を回す車椅子へ手を伸ばし、這いずりそれを起こした]
…時間は差し上げました。
足りぬのなら…
それもまた違うけど似ているのかも知れません。
…――可笑しい、な…
――俺には、お前の言葉こそが、
きれいごとに、聞こえる…
[どうやら振りおろした杖の手元は
うまく――そう、うまく彼女に当てられたらしい。
手首を強く握った侭、ぐいと引き寄せれば
彼女の持つ鉈は 果たしてどこにあるのだろうか]
…約束したひと、か。
――それは、すまないな…――
…………
[寄り着て己を踏む足を容れず厭わず、雪の上に再び付してトゥーリッキを見上げる。獰猛な獣のごときいろの眼差しを受け、滲む視界―――飛ばされた折に眼鏡は落ちたらしい―――を細めた]
………そうですね…
[押し殺す声は寒さにも別のものにも震えず、吐き出す息と共に刹那だけ冷たい大気を白く染める。視線で追わず傷口の開いた手だけで地面を探り、眼鏡を見つければかけ直す―――寝転ぶ正面には紅いオーロラ]
…ありがとうございます。
──離して!
[ガン、と痛みの衝撃が脳裏を掠めるから。
ゆがんだ視界で捕らえる彼に、振り下ろした鉈は空を切るかせめて髪でも奪えぬか]
私が綺麗言?そんなの、知らないわ。
私はしたいからするだけ。
貴方も同じではないの
「姉様」
[口元が痛みに声を伴わずそう動く。
こんな男に殺されたくなんてない。
約束は守って。姉様、と
今、頭がかろうじて回るとしたら
肩から流れ落ちる赤くて暖かい液体のせい
あぁ、勿体無い。雪に飲ませてやるなんて]
[男のべたついた髪が ひとふさ落ちる。
男が彼女の手首を離すのは、鉈が男の身体に埋められた時なのだろう、硬く硬く 握りしめて]
…―――おなじ、か、同じかもしれん…
――言葉を重ねて、誤魔化そうとしているのは
[引き寄せれば、彼女の首元の位置も判ろうか。
男は、杖を女の背で落としその首に 手をかけた
…俺、か…――?
[彼女の口唇が動くのを
男は、気づく事が出来ない。
掴んだ手首を引っ張り上げ その内側を一度 ちろ と 舐めた]
[男は程無くして目覚め――辺りへ視線をやった。ぼんやりとしたのは一瞬だけ。すぐに覚醒し切り、立ち上がる。暖炉の火を消してしまうと、小屋を出て]
……嗚呼。
[零したのは白い溜息一つ。冷えた空気を縫うように、緩慢な歩みで、雪の上を歩いていく]
願うだけなら、ね――……
せいぜい口にはせんようにする。
[からかう声に少し拗ねめく気配。]
"殺し"の意味――生かす意味がわからなきゃ
わからないんじゃないかね。
トゥーリッキは……
[口に出し、言葉は飲んだまま。
今はイェンニとマティアスを見て*いる*]
[青年の胸へ載せた脚は、鋭い動作ですぐに引く。
溢れる赤が新雪をよごすと、蛇遣いは眉を顰めて
粉雪塗れのレイヨを咎める如き面持ちで見遣った。]
…あまり、それを零すな。
おおかみを遠ざけるに難儀する。
[差し上げましたと口にする彼へ、それでも鷹揚に
頷いて――厚い毛皮を首元へ掻き寄せ背を向ける。]
いざという折に力が出ぬでは…
庇ってくれたカウコに、申し訳が立たん。
…イェンニに、会いにゆくのだ。
約束を果たしたなら、訪ねよう。
[横殴りの風雪、激しくなりゆく吹雪。
ぐず、と鼻先へ音を立て蛇遣いは足を早めゆく。]
礼の仕返しと、
時が足りぬかどうかは――その折に*。
この、下種……──!
汚らわしいにも程があるわ!
[舐められた手首に、彼には見えなくとも、誰にも見せたことのないほどの嫌悪の表情をさらして。
鉈を持つ手に力は入らない。
ドサ、と音がするのはそれを落とした音。
得物を失った手は彼の頬をはたこうと再び振り下ろす]
姉様…姉様、姉様……!
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