そう…あの子が。
[二日酔いのせいか、アンの死に少女の反応は鈍い。]
あら。女性にも参政権はあるのかしら?
投票だなんて…でも、私たち、なにも手がかりがないんですの。
[いつものように笑おうとして、少女は顔を顰める。]
…不公平ですわ。**
[自警団員が扉をノックするけたたましい音に起こされた。
寝巻きに上着を羽織り、髪を下ろしたままの姿で玄関へ急ぐ]
いいえ、昨日はここには……
[知らされたアンの行方。
ここから程近い場所で遺体が発見されたが、靴が片方見つからないままだという]
あら。女将さんたら手が早いわ。
抜け駆けかしら…とも笑っていられないのね。
[二日酔いに気怠そうな声。]
殺めなければ殺められるだなんて、嫌だわ。人間みたい…
でも、せっかくですもの。わたくしツキハナおねえさまにしようかしら。
だって、あんなにお綺麗なんですもの。…ずるいですわ。
[囁きに続く小さな笑い声**]
―昨夜―
はい、これで大丈夫。
転び方が上手だったのでしょう。すぐに痛みも引きますよ。
[階段から落ちたというバクの背や腰に貼り薬を施し、治療道具を鞄にしまう]
――…。
[鞄の底には、紙に包まれた獣の毛。誰かに話すべきだろうか。惨殺現場に残されていた『証拠』の事を。
いや、と首を振る。まだ、ヒトガタの化物がいると決まったわけでもない。いたずらに皆を怖がらせても碌な事にはなるまい]
─ 翌朝 ─
[玄関の方から、女将と自警団員たちの問答が聞こえる。]
亡くなった人がいるのか……
[昨夜話題に上っていた、アンという女性らしいが。]
詳しい事情を聞いた方がいい、か?
[誰に尋ねたものか**]
[がんがんという、扉をたたく音がする。薄っすらと目を開けて、ここがいつもの自室ではないことを思い出した。
続いて聞こえてくる自警団の声で、行方不明だったアンの事を知らされた]
そんな…
[余り親しくないとはいえ、同じ村の人が死んだ、という事に衝撃を受ける]
[身支度を整えて、部屋を出た。白衣を着たユウキが、急ぎ部屋から出て行くのが見える。その背中を見送って、ふう、と大きく息をついた**]
[廊下に膝をついた状態で、検分に向かう医者を見送る]
一人差し出せだなんて……
[ゆらりと右手を口元に寄せ俯くと、髪が顔を覆った]
[指輪に歯を立てた途端、ツキハナの姿が脳裏を過ぎった。
赤色が、白い肌に映える、そんな姿]
きっと綺麗よ。
[痺れるような感覚に、少し震えるように口元が弧を描く]
投票……
[着替えてから食堂へ出向き、チカノ>>0の言葉を繰り返して噛み締める]
あの剣幕では、自警団は本当に処刑をするつもりなのでしょう。
[人前では珍しく椅子に腰掛け、ため息を*零した*]
― 廊下 ―
[中庭に面した廊下、仏頂面で外を覗いている。
何で逃げ出したのかとか。
何でちゃんと宿に連れてこなかったのかとか。
宿の外での殺人で、何故自分たちが疑われるのかとか。
たくさんの思いが渦巻いて]
なんで探しに行かなかったんだよ俺。
[唇を噛む。迷い子を見かけるたびに笑ってくれたアンはもういなくなってしまった]
[「ありがとう先生。じーちゃんみたいには出来なくても。俺、頑張るから」
昨晩ユウキの、治療道具をしまう手が止まったとき、自分は勢い込んでそう言った。自分を治してくれる先生に、あまり暗い顔をしないで欲しかった]
……できるかな。
[中庭を向いたまま、膝を抱えて座り込む。
膝の間に顎を埋めて、つぶやいた*]
― 夕刻:食堂 ―
[三度の食事も、砂を噛むような味しかしなかった。]
別に、幽閉されとるわけやなし。
こないな村、皆で逃げ出してもうたら……、
[言いかけ、宿を飛び出したアンの死を思い出す。]
いや、……お嬢ちゃんの二の舞、か。
獣にせよ獣以外にせよ、危険なモンが居るのは事実。
[呟いて、大きな掛け時計を見遣る。
刻一刻と、自警団のやってくる時刻が迫っていた。*]