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[足音が、聞こえた。
雨の日にするそれに似た足音が。
一たび立ち止まり、辺りへ目を向ける。そしてまた、歩き出した。やがて男が見た姿は、生きたものだったか、死したものだったか**]
[幾らか歩き進んだ後。濡れたそれとは別の足音が耳に入ってきた。止まった足音に、僅か思案しつつも男は其方を目指して歩き続けた。其処には、一つの姿が待ち伏せていた。
己の組織に属する者――エリッキという名の人物。あちらからかけられた声に、頷き]
ああ。
迷惑なら……かけられた方の覚えしかないな。
こんな事態に巻き込まれるとは。
全く、面倒な事だ。
[ふう、と些かわざとらしい溜息を吐きつつ答える。相手の姿を窺うように見やりながら、また潜め持つ鉄を意識しながらも、静かに]
……そうだな。
あえて誘おうと思う程には、私も若くない。
あの小僧のような、赤に魅入られた狂乱でもない。
[続く言葉にも頷いて、揺れる背を見据え]
[すれ違いざま、笑い声を漏らす。
目の前の男の素性等知る由もないが、何とはなしに同業者かと思う。
相手が自分の事を知っている事も知らないが、自分のことはともかく属する組織は名の知れているものだ。
仮に知られていてもその点は警戒しない]
くっくっ…難儀だな、俺もあんたも。
あの生意気な小僧が元凶なら楽だがよ。
[信用するわけではない。
ただ、利益で動くものなら理解もできるというものだ。
背に感じる視線もやがて離れるだろう。
名も知らぬ男は、自分に危害を加える利点を特に感じていなさそうだ。
少なくとも、今は]
さて、あの小僧か…後は、誰が居たか。
部下の仇討なぞ今更だが、こんな所で腐ってもられねえ。
[話し声が聞こえた。
低い声。男の声。
バーで聞いた、二人の声だ。
いつもどおりの顔ぶれだと思っていた。
けれど最初に殺したあの女だって、本当は知らないし、置いてきた坊やも思えば初めてみる顔だった。
ふと、空を仰ぐ。
街灯にとまった羽持つ何かが此方を見ていた]
全く以て。
ただ人死にばかりなら、些事だが。
常ならぬ異変が混じっているのではな。
[そう最後に呟き返し、そのまま消える背を見送った。ふ、と短く笑いを零し]
[見詰め合っていたのはどれくらいか。
詰めていた息を吐き出し、振り返った。
その、先に]
いやだ
[パン、と乾いた音がした]
おにいさんてば
………言葉を、くれないのね
[振り向いたのが功を奏したか、弾は脇腹を貫いていった]
[崩れ落ちそうになる膝になんとか力を込めて目に付いた路地に飛び込んだ。傷つけられたことはあるけれど、撃たれたのは初めてだ]
初めて、だって
……ふふ
[手負いの女だと侮って、すぐに追いかけてこなければいい。
行きたい場所に行ける路地。
あの男が、何を思って銃を手にしたのかはわからないけれど、本心から殺そうと臨むのなら]
もう ……時間、が
[ない。
平坦な地面で躓いて無様に転びながらそう考えた]
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