情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了
[1] [2] [3] [4] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
[タンブラーが倒れる音。液体が溢れる音。少し離れた横からしたそれらに、男は視線だけを動かして其方を見やった。
カウンターの上に広がる赤。物騒なその色は見慣れ、好きだとも嫌いだとも思わないものだ。
赤をぶち撒けた相手に対し、男はただ片眉を動かしたばかりで、別段文句を零しはしなかった。その奇行は、いつもの事、だったから。
勿論、直接被害を被れば話は別だが]
……十一月の、三日だ。
ヴィルヘルム・ライヒが死んだ日だな。
[生誕を問う声には、呟くように返答した。マスターから詫びのグラスを受け取り*つつ*]
ベッドに?
[残念ながら、甘やかなやりとりにはてんで向いちゃいないたちなものだから、その言葉がすぐにカクテルの名前には繋がらない。
ただ、この売春婦めいた風貌と艶めいた声で、"ベッド"の単語が示す意味くらいは、わかる。
そうしたらもしかすれば、答えはその先だ。けど。]
そうだな、とても魅力的なお誘いだけれど、まだ勢いに任せるには早いかな。
ボクの誕生日までは待たなくてもいいけど、もっと夜が更けるまでさ。
[この女が、いつもの常連だったかそうでないかは、別にどうでもいい話。
誰だって等しく、変わらずに笑いかけるだけ。
金輪際馬鹿な真似はよせとマスターが言っても聞こえないふり。
だってこの侘びの一杯を目当てに来ている奴もいたりしただろ?
時々タダ飲みするためだけに、何杯分も先に金を落とす客を連れてくることもあるんだ、ボクの手柄じゃないけど感謝してほしい。]
初雪から産まれたから、きっとキミはこんなに綺麗な色をしているんだ。
羨ましいな。女の人って綺麗だから。
[彼女の指先が弓なる口元に吸い寄せられる。
あまりに官能的で、唇を湿した。]
[男はたくさんの名を持っていた。
現在のところ、この街ではカウコと呼ばれていることが多いから、まあそれが彼の名、ということにしておこう。
はいよ、という声とともにかすかに煙の香りのする水割りがトン、とカウンタに置かれた。
いつもの銘柄、モルト仲間にはせっかくの個性をそんなに薄めるなんて、という苦笑いをされるほどの比率。しかしこれが彼にとっての完璧な水割りだ。]
……旨い。
[しみじみと呟いて、薄い水割りを一杯だけ、ちびちびと飲む。これが彼の日課だった。]
[彼は気がついていない。
いつもの酒を飲むそのカウンタが、いつものあの場所ではない事に。
マスターも、常連たちも、彼の知らない、誰か。
ただ海の香りのする水割りだけが、いつもと変わらずそこにはあった。]
ねえ、その水割りちょうだいよ。
ええと、何だっけ。ウルフ? ジンジャー? レス? キャットテイル?
[いくつもいくつも名前を並べ立てる。
その中に彼の呼び名がひとつでもあったのか、ないのかも知らないままに、催促の手が伸びる**]
んだよそれ。
[並べ立てられた名前らしきもの。
そもそも彼は誰だっけ。記憶を探る。が、途中で面倒になった。]
ああ、そうだな。
んじゃウルフでいいわ。
[答えて、ほらよ、と三分の二ほど残ったグラスを差し出した。
また名前が増えてしまったわけだが、そんなこと、彼は全然気にしない。]
旨いだろ?
[自慢げに言うが、好みを選ぶ酒だ。思い切り薄めてあるとはいえ、何しろ殆ど煙を飲んでいるような香りなのだ。]
ありがとう
[睦言になりきれない言葉には、意識して瞳を大きくさせて頷いた。白い頬に黒髪が揺れる]
貴方も綺麗な顔してるわ
男の人は、努力なく綺麗なんだもの
肌、とか
[紅を差した頬を、さきほど"秘密"を示した人差し指でつついて見せた]
もう冬に入る頃だ。
……オーロラが見られるかどうか、だな。
[その鮮やかとは通じない、むしろ彼の言う雪の方に近いだろう乳白色を掻き混ぜつつ、僅かだけ思案するような素振りをした。
誕生日の話には肩を竦め]
誕生日なんて、そう嬉しいものでもない。
若者までならいざ知らずな。
まあ、嫌いという事もないが。
茶会なら、私は好まない。
[彼が別の姿に話しかけるのを見やり、グラスを傾ける。見慣れたカウンターの奥を見るでもなく見つつ]
["やはり"このバーは男の客が多い。
それはバーという形態故か、時間帯か、窓に女がいるという、この状況がそうさせているのか。
女から視線を逸らす前の、男の仕草。
よく見るものだ。
喉が渇いた時のそれは、何かを欲する時共通のもの。
手を伸ばせば手に入るのに。
勿論、お金があればだけれど]
[並べ立てられるいくうもの名前をよそに、再びカクテルグラスに口をつける。
酔うためでもなく、食事に来ているわけでもないから、カクテルの減る速度はとても遅い。
キャットテイルなんて可愛らしい、などと考えていたからか。
ウルフと聞こえた時には、思わず作っていたはずの笑みが濃くなった。声を出しはしないし、視線も向けなかったけれど]
……あら
[店の奥。暗い照明の光も届きにくい隅の席に、女が一人座っていた。
真黒な帽子に飾られた花は、首の俯きと同じくして、今にも落ちてしまいそうに見えた]
――ほんの少し前――
[頬に触れる指先。少し伸びた爪のかたい感触。
綺麗と言われたって、そうあってほしいと願ったものじゃないから、どうにも的外れに思った。]
努力なく綺麗、ね。
綺麗になろうと思っているわけじゃないんだけれど。
そういう風に言うと、嫉妬する?
[視線を逸らす前のこと。
つつかれた指に自分の指も添えて、絡めて降ろさせる。
なんてことない、ただの女だ。
背けてしまえば、刹那の欲も薄れた。
もう思考回路は、11月3日のことばかり。]
――現在――
ウルフ。ウルフか。わかった。思い出したよ。
そういえばそんな名前だったっけね。
[口から出まかせ数撃ちゃ当たる、なわけもないが、欠片も思い出せてなどいない男の名前をさもはっきりと記憶にあるかのように頷く。
薄めに薄められた水割りはまともな味すらなくなっているが、それで構わなかった。あまり味の違いなどわからない。
けれど煙を飲むとは言い得て妙かもしれない。苦みか、渋み。味がするとも言い切れない、鼻から抜けるだけの、とらえどころのない味わいが喉を落ちていく。]
うん、美味い。非生誕祝いにうってつけだ。
[それは、茶会は嫌いだといった男へ傾けるためのグラス。]
[小さく軋む音を立てドアが開いた。
野暮ったいコートを着込んだ人物はするりと店内に入り、背中で押し当てるようにドアを閉める。
さっと客たちの顔を確認して、それが数刻前まで眺めていたものとは違う事を認めると、まっすぐに奥へと歩いていく。
二人掛けの席の一つに重そうな鞄を載せ、がさごそとテーブルに物を置く。それから上着を壁際にあるコートハンガーに掛けていれば、いつの間に来たのだろう、いつも通りの酒が灰皿が供されていた]
……参るなぁ。
[頼もうと思っていたものが何も言わずに出てきていることに対して、苦笑しか出ない。
それだけ自分が通い詰めているということだろうか。
日中の煩雑な人間関係から逃げたくて、此処ではいつも他を拒絶するように一人で本を読んでいたが、その在り方さえこうして築かれるものがあるのかと気付かされてしまう]
[本当に独りでいたいなら家の中にでも籠ればいい。しかし一人でいることを許容しつつ独りにしないこの店に、どこか苦く、どこか暖かく感じた]
[1] [2] [3] [4] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了