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ダンちゃん…、っは、…私は逃げない。
…、…逃げないよ。
清治くんを…、抑えてて。
―――― 私が …殺してあげる。
[ポケットの中から鋭いメスを握る手。
握り過ぎた手は白と赤い色が目立つ。
暑い中、走ったせいで額には汗が滲む。
その手が狙うのは―――清治の頸動脈。**]
こんな村嫌だって思ってるなら、出て行けばいいじゃない。
[畑のあぜ道を、さして急ぐ風でもなく歩く]
そんなことしても、誰も帰ってこないよ。
[しゃがみこみ、転がる大き目の石を拾ってセイジの方へと投げやった。
周りに人がいることも*構わずに*]
じゃあ、頼むから……僕の事は、食べないでくれるかな?
罪が二度と赦されなくてもいいから。
[若葉を真っ直ぐ見詰めて言った]
――僕も一応、解ってるつもりなんだけどな。
多分、理解の仕方が違うんだろうね。
僕はまだ、母さんの生まれ変わりに出会った事ないし。
――っと
[会話に気を取られている間に、包丁を奪われた]
しまった。さっさと殺っておけば良かった。
居てもいなくてもいいような父親なんだし、ね。
[皆を殺すと言うセイジを、母親を殺されたというその姿を、対峙するダンケやワカバの姿を、見る。近付いていく事も、何をする事もできないまま]
……罪。
罪は死によって赦される。
命は喰らわれ繋がれる。
[語るように、独りごちる]
アンさんは……
やはり、事態を察していたのですね。
だから……
[セイジが語る理由に、俯き]
[周囲のざわめきが、何処か遠く感じられた。左腕の途切れた先端が冷たいように感じた。ふいに、昔の事を思い出した。己を生んだ母親。彼女は己がまだ幼いうちに死んだ。儀式の対象に選ばれたのだった。
当時はわからなかったその理由は恐らく、欠損を持つ子供を生んだから、だったのだろう。
そして本来は己が選ばれるはずだったのだろう。欠損を持って生まれた子供として]
……、
[「お母さんを食べて」「お母さんの代わりに生きて」「この村の全ては正しいのだから」――己を抱き締めてそう語った母親は、泣いていた]
[飛んでくる石>>24が見えて、大きく溜息を吐く]
それでいいんだよ。誰も帰って来なくしてるんだから。
それに、本当に生き返りがあるなら、誰がどうやって死のうが――
[ホズミに向けた言葉は、途中で切らざるを得なかった。
それは、メスを手にこちらへ向かって来る若葉が見えたから]
――よくわかんないや。貴方たちの考えてること。
でも、若葉さんがダンケさんの事を大事に思ってる事。
それの気持ちが、本当だったら
いい な
[その言葉は、どこまで正しく発音出来たかわからない。
視界が暗転し、意識が真っ逆さまに落ちていく。
何かを掴もうと足掻いた白い手は、虚しく地面に*転がった*]
[何度も思い出した事がある記憶。それにも関わらず、何故だか、暑さのためではない汗が滲み出したのを感じた。左腕の先端から伝わるように体が冷えるのを感じた。動悸が激しくなる。吐き気がする。
何も考えないようにしようとしても、記憶は繰り返し頭に浮かんだ。村の「記憶」が、村の外の「記憶」が、男が多く知るそれらの記録や知識や物語の断片が、撒き散らされるように、混じり合って浮かぶ。
深く閉ざされた無意識に存在していた何かが、現れつつあるような感覚に襲われた]
……あの話は……
[セイジが倒れゆく姿をぼんやりと眺めながら。思考を逸らすように、集会所でマシロに語ろうとしていた、かつて村にあった「似たような状況の話」の結末を思い出す。あの話は容疑者が皆死ぬという悲劇的な結末を迎えていた。犯人が死んだ今回は、そうはならないのだろう、と思う。だが今回も悲劇ではあるのだろうと、思う]
……終わった、のですね。
[倒れたセイジを、メスを持ったワカバを、順に見て呟く。その声と表情は奇妙な程に淡々としていた]
罪は死によって赦される。
命は喰らわれ繋がれる。
[先程も口にした言葉を繰り返して、唇の端を噛む。思いの外強く噛んでしまったようで、唇から血が細く一筋伝った。それを指先で拭い、舐め取って]
……終わったのですね。本当に。
良かった。
[やはり淡々とした調子で言うと、踵を返した。完全なる終焉を見届ける事もないまま、おぼつかない足取りで、何処かへと*歩いていった*]
本当に?
[顔色を変えずにそう言って、うごめくセイジを見ていた。
やがて微動だにしなくなってから、ンガムラの去った方へ身体を向け声を張り上げた]
アンちゃんそろそろ煮えたはずだからいただきましょうー!
[一気に言い、長く*息を吐いた*]
[きつく唇を引いてから、右手を振り上げ]
―――― どうか、
清治くんの罪が清められますように。
[僅かな抵抗の後、皮膚を突き破り
容易に血管までたどり着く鋭利なメスの刃。]
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