[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
……なあ。
探されたくない、見つけないでほしいって。
そう、思うのには、なんか理由があると思わん?
[口にしたのは、多分、聞く方にはかなり唐突な言葉]
その理由が、はっきりせんと。
……無理に見つけだしても、また、ループするだけのような気がするんだよね、俺は。
[言いながら、懐に手を入れる。
鎖を通した、未だに処分できずに持ち歩く名残を軽く、撫でて]
兎が言ってた、時計の主……だっけ。
『それ』は、『何で』沈んでるのか。
それがわかれば、なあ……とか。
そんな事思ってたりするんたけど、これ、おかしいかね?
[相変わらずの苦笑いのまま、こんな問いを投げかけた。**]
─ 診療所 ─
[夢を見ていた。
海岸に立って波打ち際を見つめていると、
どこからか白い霧が立ち込めてきて、なぜか自分はこの海の上を歩けると確信する。
そして、波の上に足を乗せる……。
海の上から振り仰ぐと、崖と灯台と青空が眩しかった。
でも、自分はもうあの場所へは行けないのだと思った。
舞台やTVドラマのスモークの演出よろしく、初音は霧に包まれる。
白すぎて何も見えない。
そう思った瞬間、落下する感覚に全身が総毛立った。]
[海に落ちたのだ。
青、青、青。
叫ぼうとして、初音は気づいた。
自分が処置室のベッドで上半身を起こしていることに。
眠っていたのは数分か、数十分か、あるいはそれ以上だろうか。
動悸のおさまらない胸でヴァイオリンケースをぎゅっと抱え、背中を丸めた。**]
[この世界に来てからどれくらいの時間が経過したのだろう?
それとも、時間が停まっている世界なのだろうか?
初音はのろのろと動いてベッドから離れた。
頭痛は少し残っていたが、寝る前よりはずっとましだ。
天井扇からの風のおかげか、悪夢を見たにしても、気分はそう悪くない。]
落ちついて……大丈夫……
[深呼吸をしながら、自分に言い聞かせる。]
[濡らしたハンカチを額に当てて、初音は顔を上に――天井扇のゆるやかな風に向ける。
兎の口ぶりでは時間がなさそうだったけれども、
出会ったウミ、パオリン、ゼンジの3人はちっとも急いでいるふうではなかった。]
誰かがこの空間を消したがっている……?
でも、この空間が何のため存在するのか…わからない…
[兎の言葉を全部信じるわけにもいかないと思う。
そもそもの元凶は兎かもしれない。
呼びこまれた人間が右往左往するのを、どこからか眺めて面白がっているのかも。]
[結局、確かなことは何一つわからないのだ。
キーワードは、『鍵』、『螺子』、『時計』、そして]
……海?
[そういえば、青い波の幻覚を何度も見た。]
海に……何かある……?
『鍵』か『螺子』が…………?
[思いつきだったが、手がかりもない現状、
場所を絞って探すしかないようにも思える。
初音ひとりが海岸へ行ってそうなるわけでもない気はする。
するが、このまま診療所にいるのも落ちつかない。]
[初音は待合室のベンチでヴァイオリンを取り出した。
あの暑い日射しの下を再び歩くと思うだけでうんざりする。
自分を励ますために、1曲、好きな曲を弾いておこう。
アストル・ピアソラの『リベルタンゴ』を弾き始めた。**]
......理由、知りたいなら、海に行くといいかも。
あそこに沈んでます、きっと...
[あの歌は、あの海の底から聞こえているから*]
[譜をそのまま弾くのは難しくないが、
タンゴらしい哀調や色気を音色に乗せるのは大変難しい。
自分の音色に納得がいかず、3回も弾き直したが、
音楽にこだわっている場合ではないのだと思い、
初音は弓をおろした。
大きく息を吐く。
名残惜しく思う気持ちを吐き出す。
ヴァイオリンと弓を丁寧にケースにおさめると、
学生鞄とともに片手で提げ、
初音は立ち上がった。
飴色の木製のドアを押し開いて通りへ出る。]
─ 診療所前の通り ─
[通りには誰もいない。
どこからか風鈴が鳴るばかりだ。
夏の日射しは遠慮なしに照りつけていて、
影の位置は最初の遊歩道のころから変わっていないように思えた。]
タイムリミットがあるなら、
残り時間がわかるよう教えてくれればいいのに……
[目の前にいない兎へ愚痴をこぼしながら、
初音は歩き出した。
海へ。]
[夏神という男と一緒に、海岸の方へと戻る道を歩き出す。
俺はもう、確信し始めていた。
「鍵」と「螺子」それが、人の中にあるのなら、それはきっと...]
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ