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[896号室。
クルミさんの部屋は、たしかそこだ。
だが困った。
まだ、宿題をクリアしていない。
顔を出しづらいが、今は仕方ない。]
ここだよ、ボタンさん
[クルミさんの病室。
一つ、二つノックして。
少女を連れて、病室に入る。]
クルミさん、入るよ
[ところで、少女は年齢が随分離れているけれど。
どう言う友人なのだろうか。]
…ユウキ先生?
[扉を叩く音に、顔を上げる。
ベッドに腰掛けたまま視線をそちらへ。
声はすっかり覚えているから
招き入れる事に躊躇いは無く。
便箋を手にしたまま、
こんにちは…と挨拶を。]
ああ、こんにちわ
こんなに早く来る予定ではなかったけれど
[招き入れられれば、苦笑いが浮かぶ。]
宿題は、まだなんだ
今回は、君に会いたいという人を連れてきた
[少女後ろに少女を連れているはずだから。
彼女の目にも、入るはずだけれど。]
体調はどうだい?
[職業病だろうか。
まず、患者の体調を聞いてしまうのは。]
― 病室 ―
[ユウキ先生と一緒に病室に向かっていく。
どんどん困ったことに気がつく。
まず、行ってもくるみちゃんは自分に気づかない。
ただ不審がられるだけだ。
さらに一緒に行ったら、先生にも知り合いじゃないことがばれてしまう。
その上お手玉も完成していない。
本来なら、この時間私はお手玉を作っているはずなのだ。
会いたい気持ちがどんどんしぼんで、顔が自然とうつむいていく。
しかし、目の前の先生はくるみちゃんの病室のドアを開いた]
狭間
[大空へと羽を拡げ、男は自分の煙が昇る
葬場の上を緩やかに旋回していた。
白鳥には、なれなかった。
白鳥になるには、業を背負いすぎていた。
名も無き鳥となった男の意識は天高く羽ばたき
強く、大きな声を響かせる。
其処に如何なる意味を持っていたのかを
現世に残る者達に、知る術はなく。
白く、ちいさな鳥は白い空を求めて旅立ち
やがて、誰の目にも見えなくなっていった。]
くるみちゃん…
[そこにはベッドに腰掛けたくるみちゃんがいた]
えーと…
ぼたんおばあちゃんからの伝言だよ
あのね、ごめんね
できなかったの お手玉
頑張ったんだけど、渡せなかった…
[何がなんだか自分でわからなくなってくる。
少し目の前が滲んだ**]
other world
[男は、病院の休憩室で微睡の中に居た。
周囲には子どもの声と、娘達の姦しい声]
『お父さんて、寝てるとお婆ちゃんにそっくりじゃない?』
『私もそう思う!』
『それより、さっきの外科の先生イケメンじゃなかったー?』
『私は入院患者さんでイケメンみつけたよ』
[聞こえている。
けれど、男がツッコミを入れる前に、孫(7歳男児)が
空気を読んだ]
『オマエラ、もっとママらしくしてろよ』
[よく言った、とばかりに孫の頭を撫でた。]
全く…、女三人寄ると姦しいだが
四人も集まると…
[それ以上だなァ、と欠伸しながら浮上する意識。
娘達も、孫も傍に居て
母ももうすぐ退院という幸福な世界の中で。
男はこの病院が、不思議と好きだった。
特に用事があるわけでもないのに、
休憩室を後に、院内を見回していく]
/*
なるほど、オチはないのですか
私は多角だろうと同時進行だろうと異世界移動だろうと大丈夫ですから。
会いにきても、いいのよ
/*
おお、ありがとう、ありがとう。
死後の世界なんでもあり、的な感じで
いつも通りに先生にも接触してみるさね…
速度おっそいので、おかえしものんびりでどうぞだよ
自販機周辺
[院内は今日もあたたかい。
気温の問題ではない。
肌に伝う空気が、人々の空気があたたかいのだ。
消毒薬の無機質な香りとか
寒々とした壁の白さだとか
そういったものを一切感じないのが、
自分が、死んでいるからだなんて気づく筈もなく]
――やあ、先生
休憩かね、……俺ちもなんか飲むかなァ
[ポケットを漁る。
生前にはなかった筈の硬貨や札が数枚、入っていた。
ブラックの缶コーヒーを購入し]
[自販機前で、男性に出会った。
何度かお世話になっていて、顔も知っている。
お互いに、名はしらないままだけれど。]
こんにちわ
ええ、休憩です
こういう仕事は、いつ休めるかわかりませんし
[微糖を啜りながら、彼の手元を見る。
どうやら、ブラック珈琲のようだ。
苦いのに、よく飲めるな。
ブラックを飲む人を見ると、いつもそう思う。]
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