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[空中に投げ出す音。]
………2012年…
[ぽつり。
呟きと共に、有翼人との距離は見る見る開いてゆく。
地面に砂塵と共に落ちた男の周囲に、芥子の種のように小さな血の雨粒がぽたぽたと降った。]
[薙刀状のそれを元の形に戻す。]
…――――……
[空中に投げ出した音に有翼人は反応しただろうか。
放り出した酒瓶を再度抱き寄せると、四辻を後に瓦礫に身を寄せながらその場を去り始める。
明瞭な意識は容を崩し影を潜め、無意識が意識を凌駕する。**]
― 挿話・放浪する復讐者との舞踏 ―
[――砂塵の街に、つむじ風が舞う。
墨色の夜に僅かなりとも往来のある界隈が
途切れ、瓦礫の中へ折れた柱ばかり立つ道。
道化たなりの男は其処で相手を待っていた。]
……
( ― 早すぎたかな ― )
[眉の曇る面持ちで軽業師が向ける問い。
…如何にも、急いた取立てを詫びる態。]
[取りっぱぐればかりを危惧した、得手勝手。
取引を重ねた客に類似の記憶はないだろう。
サンテリの返答を待ち、砂上へ歩を出した。]
[先の死合と異なる幕開けは、軽業師が奔らず
宙返りからの高い跳躍で間合いを詰めたこと。
迎撃の抜刀、切っ先を蹴りつけて背後を――
――取らせぬ とばかりの
鋭い肘打ちに弾かれ、長身が砂上を転がる。
先手に妨げようとした、薬包の摂取を許す。]
[再度飛び込む懐の裡、打突は胸の央に深く。
拳を振り抜けずに、顔を上げる――目を瞠る。
既に彼の人の瞳は紅い。
途端跳ね上がる、復讐者の脚力。反射速度。
横薙ぎの一閃に半ば振り回され、跳び退る。
肩から緩く羽織っていた外套が斬られ――
爛れる毒を刮げた胸の疵が、露わになる。]
[血塞ぎの片目側へ身を舞わせ、腕を取る。
長身の発条(ばね)で――投げる。
裂けた外套を千切り捨てる。
投げられながらも、逆しまに飛んでくる斬撃。
軽業師の膝下に鮮血とコールタールが飛沫く。]
[鋭く闇へ散る紅と、重く影へ粘る黒の対比。
復讐者の感覚をより一層幻惑する物の正体。
前回より強い薬物を口にしただろう復讐者が
振るう剣の目測が時折、僅かだけずれ始める。
軽業師の男は馬銜をがりりと深く噛み直す。]
[自らを、サンテリがあてなく追い求める仇と
証だてるためにはたったひとつ問えばいい。
年はわかっている。
彼の大事なひとが、研究施設【プラント】の
見えるところで死んだかとだけ問えばいい。
否を証し立ててしまわないために銜を噛む。]
[浅く肉を潜る斬撃とすれ違いざま、
頭巾から覗く耳へ噛み付いて前へ引き千切る。
口唇の端へ爪を引っ掛け、鋭く視界を揺らす。
(…痛い?)
交わす視線、細める目元が違わず問うている。
復讐の刃が、爛れた胸板を捉える寸前も――]
が、はッ… !! !
[みしり、喰い込む刃が内壁を凹ませて
軽業師の身体が砂上へ叩きつけられる。]
――――〜〜ッ、…
[ヒュ、と喉笛が鳴る。
連続して長く、短く。]
[軽業師の男の意識が白く遠くなる。
サンテリが突きたてようとする刃。
断続的に、…喉笛。吹子の鳴く音。
銜は外れるのに、黒い煤煙は湧かず。]
[双方の記憶は今はここで途絶えている。
…白い。吐き出された塊と、*陽炎が*]
― 挿話・放浪する復讐者との舞踏 了 ―
[どれぐらい落下しただろうか?どれぐらい意識を失っていただろうか?
傷口から少しではあるが血が滲み出る。背中が痛い。意識が朦朧とする。
朦朧とした意識で感じたのは嗅ぎ覚えのある匂い、あまりいい感情はない。
気だるそうに目を開けると、傍らに男が一人。記憶の底にある、関わらない方がいい、という警鐘を無視してたずねる。]
あんた、誰?**
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