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ん。
[謝罪の声にクルミへと向き直ったナオの顔に浮かぶ表情は、少し、驚いたふうでした。指先は軽く、頬を掻きます。]
いいや。気にしなくていいよ。
奇妙な事が続いたら、仕方ないだろう。
それに。慣れてるから。
[笑みへと変えて、首を傾けます。淡い色の髪が揺れました。]
さて。そっちの子……コハルくん?がバスなら、
余計、遠回りになってしまうよ。
君の方が年下、僕の方が年上。
ひとりでも、なんとかなるさ。
だから、彼女の方についていくといい。
[そう断りを入れながらも、バス停までは*共に行くのでしょう。*]
[シャツを握り締める左腕を突っぱねるように伸ばしていたが、しばらく歩くとパッと離した]
ありがとう。
ごめん。
[言葉が足りていないのは重々承知だった。
けれど、それ以上口は動かない。
口を一文字に結んで、歩くスピードを増した]
[手にぎにぎするべきなんかなー。
どうなんだろ。わかんねーなって顔。
考えながら歩き、しばらくしてクルミが言った言葉に口を開く]
気にすんな。したいことだけしてんだよ。
俺は気にしてねえし、気にされるほうが変な気分だ。
なんだ。あれだ。……無神経で悪かったな。
[不器用に言って、そのまま家の前まで送っていくのだろう。
*いい加減夜も遅くなっていた*]
[いつまでも手には汗が滲みつづけ、心臓はいまだに音を響かせている。
かみさまの戯れの夢な気がしてきた。
すると、すこし泣きたくなった。けれど、こらえた]
無神経って、何で……?
[ため息がこぼれそうになる。
多分、言葉を選ぶのは簡単で、それを発することだけが困難なのだ]
おやすみなさい、ありがとう、気をつけて。
[家の前で一礼する。結局、顔は1度も見れず俯いたまま]
[玄関で、スニーカーの紐を緩め脱ぎ捨てる。
グラウンドの砂のにおいが、ふっと鼻をかすめた]
こわい。
[今日一日の記憶が、瞬く間に*乱雑に蘇っていく*]
[運転手だけを残してバスから降りる。音もなく降り始めた雨が頬を濡らした。傘を差そうか逡巡して、結局やめた]
もういいかい。もういいよ。
[神隠し、の言葉に昔よくやった遊びを思い出して呟く。
アンもさっきの清二のように忽然と姿を消してしまったのだろうか。どこかで、見つけ出してくれるのを待っているのだろうか。
コツン濡れた足元に当たった石を蹴り上げる]
あぁ。止まねーなぁ。
これと同じ神様のいたずらだったりして?
[傘を石と同じように蹴った瞬間、水の気配は強さをを*増した*]
[後輩二人に説き伏される形で送られて、ナオは家の前で彼らと別れました。]
ん、……ありがとう。
それじゃ、おやすみ。
[――気をつけて。そう声をかけても、真に恐ろしいものは警戒しようがないでしょうから、それは言わずに、手を振って見送りました。
鍵を開け、灯りのない、古びた家屋へと扉を軋ませながら入り、電灯を点します。自室に入ってすぐ、ナオは鞄を布団の上に放って、窓をガラリと開けると、机の前の椅子を引いて座り、頬杖を突きました。]
[外は静かで、灯りはまばらにしかありません。
暫くの間、ナオはそうしてぼうっとしていましたが、ふっと思い出したように、鞄から封筒を取り出しました。]
指紋、つけないほうがよかったかな。
[今更ながらに、そんな事を考えました。それでなくとも、筆記鑑定を依頼すれば。そう思いながらも、もう一人の自分が無意味だと否定します。
封筒を開け、中の手紙を開いて、……ナオは、目を見開きました。]
……何故?
[ナオの声に応えるものは、ありません。
記された文字に、視線を落とします。そこに書かれた内容に、安堵と落胆の入り交じった吐息を*零しました。*
夜は更けて、色の雨が降り出します。]
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