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うん。眠いなら、もう今日は寝ようか。
[筋力を二倍にする奇跡の新薬『MYO-029』を飲み、
パーフェクトベックになって、眠そうなチカを抱きあげる]
……。
[ユウキとツキハナのやりとりを見て、ちょっと思案]
まあ。
[視線を彷徨わせた挙句、ツキハナを見る]
たとえ、夢幻に過ぎないのだとしても、
スイの言っていたように、
俺にとっても、皆は“家族”なんだろう、な。
[温もりすら、偽りかもしれない。
けれど、その手に、触れた]
[二人を見ながらちょっぴり心配してる様子]
……じゃあ、じーちゃんは寝る。
[任せて良いよね? と目でユウキに問う。
それから、ゆっくり茶の間を出て行った。*]
それなら、お帰りなさいと言わせて下さい。
明日も、明後日も、ずっと……あなたに。
[叶わぬ願いと知りながら、ユウキの瞳を覗き込んで言う。
涙を隠そうと、静かに*抱きついた*]
[お休み、とは口の中だけで。
目線をベックに返して、出て行く二人を見送る]
それから。
きっと、この想いも。
君を好きになれて――
愛せて、よかったと思う。
[言い辛そうにしながらも、微かに笑んだ]
……ありがとう、ツキハナさん。
[そっと、*背を撫ぜる*]
― 夢 ―
「ちか、お前さんももう十三。嫁に行く手筈を整えたぞ」
「お嫁に・・・?じゃあ、だんなさまができるの?家族ができるの?ゆうちゃんのねえやが着ていたような、まっしろな着物が着れるの・・・?」
「ああ・・・そうだな。ちかが嫌われないようによく言うことを聞けばな」
「聞く!言うこと聞くから。庄屋さま、おねがい」
「そうか、それは話が早い。今までお前さんを育ててきた甲斐があったというものだよ」
***
[白無垢に身を包んだ”ちか”は、籠に乗せられ、しずしずと山道を運ばれていた]
「ねえ、どこに行くの?わたしのだんなさまは、どこにいるの?」
「もうすぐだ、もうすぐ会えるぞ・・・」
[たどり着き、籠から下ろされたその場所は、山深く木が生い茂る寒々とした場所だった。目の前には、地中深くに穴が掘られ、中には”ちか”がすっぽりと入るくらいの丸い桶が埋まっていた]
「・・・し、庄屋さま、これは・・・これは・・・」
[訳が分からず棒立ちになっている”ちか”に、堰を切ったように滔々と紡がれた言葉は]
「この村では、五十年ごとに地の神にお供えをしてきたのだ。その年に十三になる生娘をひとり、地の神の妻とする。今回は持ち回りでわしの孫娘が、おゆうが、そうなる羽目になって困っておったら、お前が現れたのだよ。ちか、今まで育ててきてやったろう?さあ今こそその恩を返してもらおう」
[呆然としたまま、がくがくと震えながら”ちか”は”ゆう”に視線を向けた。たすけて、と言いたかったが、声は出ず、唇も固まったように動かなかった]
「何よ、その目は!いつもそうよ。いつもそうやって私を見て、私を責めるのよあんたは!わざと私の真似をして名前を呼んだり。はやくいなくなってよ。もう私を見ないでよ!」
[ぽろりと、”ちか”の目から涙が零れ、地に染みを付けた]
「さあ、ちか。お前さんの相応しい場所へ、行くがいい。
”ちか”。・・・・・”地下”」
[村人たちが、細く軽い”ちか”の身体を羽交い絞めにして、逃げられないようにしてから桶へと運ぶ。しかし”ちか”は、逃げるどころか指一本動かす気力すら、失われていた]
[桶の蓋が閉まる。一瞬にして視界が闇に落ち、正気が戻り、”ちか”はやっとか細い声を上げた]
「いや・・・。こんなの、いや・・・。
まっくらだよ。だんなさまもいないよ・・・。いや・・・」
[しかし、桶に木釘を打つ音、土をかける音に紛れ、どこにも届くことはない]
「くるしいよ・・・けほっ、けほっ。
いやだ、出して。ここはいや。くるしい・・・」
[酸素を求め、ぜいぜいと喉を鳴らす]
「・・・さむいよぅ・・・・」
[暗闇と、寒さと、孤独の中。
そして”ちか”は、最期の息を*吐き出した*]
― 夢・了 ―
わたし、うらやましかったの。
ゆうちゃんが、うらやましかっただけなの。
どうすればよかったの?
わたしはどうすれば、よかったの?
じいじ、こわいよ。
”あっち”は、こわいよぅ・・・!
[ベックの服にしがみつき、もはや涙すら出ないほどに青ざめ*震えている*]
[ちゃりん、と音がした。
卓上には、六文銭が二人分]
足りないのは……
此処にいろってことなのか、
それとも、他に理由でもあんのか。
[首の後ろに手をやり、コキと鳴らす。
欠伸をして、居間を出て行った。
貨幣は置き去りのまま]
[戸惑いながら、震えるチカを抱きとめる。]
……思い出した?
[何があったのか判らず、問いに答えることはできず]
チカ。チカが向こうで一番怖いものはなに?
[ベックの問いに、ぽつりと答える]
・・・ひと。
ひとの、こころ。
[あれほど人との交わりを求め、温もりを求めていたのに。
巡り巡った答えは、全く正反対のものだった]
ねえ、じいじ。
じいじはどうして、”ここ”にいるの・・・?
あなたに捧げていたのね、私……?
[仏壇の一つ多い草団子を見つめて独りごちた]
あなたはここへは来なかったんでしょうねぇ。
後ろを振り向かない人でしたもの。
[苦笑を噛み潰して、花嫁衣装を脱いでいく。
未だ、彼の男の名も顔も*思い出せてはいない*]
[うん。と弱く肯んじて]
そうだね。怖いね。
騙されたり、傷つけられたり、とても怖いね。
[どうしてあげれば良いんだろう、
そう考えながらチカの質問に答える]
じーちゃんは死にたくなかったから。かなあ。
[ふとちかは、庭の笹に視線を向けた。
微かにゆらゆらと揺れる短冊が、悲しげに晒されていた]
かぞく・・・・。
[ずっと願っていたもの。そして一度は叶えられたもの]
できない・・・忘れられないよぅ・・・。
[もはやちかにとって”家族”とは”ここ”に集った人々と同等の意味でしかなく、唯一無二だった。
しかし既に殆ど失われ、回復の見込みは無い。
ちかの想像の及ぶ限り、これ以上の家族はありえない。
ちかの中では思考が堂々巡りをして、出口を見失っていた]
ずっとあるよ。
[痛々しいチカの様子に、それでも笑ってみせて]
家族。会いたいなら、会いにいこう。
なくなったわけじゃないから。
チカが怖いものからは、じーちゃん達が守るから。
[囁いて、頬を撫でた]
じいじ・・・やさしいね。
[ちかは悲しげにベックに微笑んだ。
”向こう”に行った人たちには、それぞれの新しい人生と新しい家族があるのだろう。
それは”ここ”の家族ではない。
会いに行くということは、その事実と向き合うということ]
わたし、わがままだね。
よくばりだね。
優しいの一言ですませるんじゃありません。
[ぺち、と柔らかくチカのおでこを叩く]
良いよ。わがままでよくばりで。
伝えなきゃいけないことのほうが、多いよ。
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