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─ 海辺の道 ─
私は…一度、帰ってみます。
此処に和馬がいるってことは、他にも誰かいるかもしれないし。
もしもひとりで居たりしたら不安だと、思うから。
ただ、その…また後で、合流しませんか?
えーと、どこか解りやすい場所…駅前の公園とかで。
何か変わったことがあったかどうか、話し合えた方が良いと思うんです。
[そういうと、風音荘のある方向へと視線を向けて。
それぞれ行く先は別れるだろうから、そう提案をした。
同意を得られずともせめて連絡先を聞こうとして携帯を取り出そう─
そう考えて、あ、と声を上げた。]
しまった…取り上げられてたんだった。
─ 海辺の道 ─
…携帯ないので、その、連絡とかはできません、けど。
皆さん、どうかお気を付けて。
和馬も、怪我したりしないよーにね?
[そう言うと、それぞれ思うところに向かい始めるのに倣い自分も風音荘へと足を向けた。]
─ 海辺の道 → 風音荘 ─
─ 海辺の道 ─
[呆然、と立ち尽くしていたのはどれほどの時間だったか。
がじがじ、と少し乱暴に頭を掻き、改めて周囲を見回して]
……あ。
[海の反対側に、古びた石段を見つけて瞬いた]
………考えててもしゃーねぇ。
行くか。
[しばらく兎が消えたところを見つめながら考えていたが、答えは出ないために頭を掻きながら思考を止めた。改めて進行方向を母屋へと定める]
…お、あそこって確か…。
[目に留まったのは玄関より奥にある、開け放たれた縁側。当時そこは祖父の書斎がある場所だった]
うっは、あるある。
本の数すげー。
[縁側へと向かい、そこから家の中へと入る。入った先で目にしたのは、祖父の書斎に並ぶ薬学の本の山だった]
そういやこの辺のもの、じぃちゃんが死んでから蔵に仕舞っちまったんだよなぁ…。
小せぇ頃は訳分かんなかったし、大学じゃこの辺のは使わないから読んで無かったっけ。
[手に取って中を見ると、昔ながらの薬の精製方法や、薬効についてが書かれていたりする。物によっては古めかしい、手書きで書かれたようなものまであった]
………あれ、この辺りのって本じゃねぇな。
ノート……っつーか、帳面?
[ふと気付くと、本棚の途中から薬学の本ではなく手書きの帳面が並ぶようになっていた。先に進むにつれて、帳面からノートに変化している場所もある]
そっか。
こっちも家に誰も居ねーから確認出来てねぇわ。
…ワスレモノのヒント、か。
あるかもしんねぇな。
ま、会ったら会ったでその時か。
[ヒントについて言われると、少し考えるような間が空く。それも束の間、楽観的な言葉が続いた]
― 街中 ―
…あ、藍子おばあちゃんのお店。
中学生くらいまであったんだよねぇ。
チカノちゃんや、年上のお兄ちゃんお姉ちゃんに連れていって貰って、さ。
[元来た道を辿る途中、ふと一角に立つ素朴な外装の店の前で足を止める。子供の流行をいち早くキャッチして、駄菓子からトレーディングカード、簡単な玩具まで揃えてあった店。現在は息子夫婦が引き継いで、小さな事務所になっているようだけれど。]
そうそう、此処に縄跳び。
ゴムボールでしょ、当たりくじ付きのガムででしょ、そしてうさぎ!
……うさぎ?
[覚えのある品々の中に、覚えのない動物が居る。
さかさかと動くその白いものをじ、っと見詰める。]
ね ねえ、うさぎさん。
さっき海辺で聞いた話だけど――
[目測を誤っただの、念がどうだの。
まるでこちらに気付かぬかのように首傾ぎ独り言を吐いたのち振り返ったうさぎは、またも一方的に捲くし立てて走り去った。
薄ぼんやりとぼやけて見えるその輪郭に目を細め、ふうと息をつく。]
時空の狭間に落ちちゃう、って。
何か凄いことさらっと言われた気が、するー…
[それがつまり何を意味するのかまでは分からないし、見ず知らずの少女の気配がひとつ消えたことも知らない。
けれども、「ワスレモノ」の重要性がまたひとつ増したのは確かなようだった。]
─ 海岸神社 ─
[石段をゆっくり上がり、たどり着いたのは古びた神社。
4年ほど前だったか、不審火で焼け落ちたと聞いたそれは、記憶にあるのと変わらぬ姿でそこにあった]
……こうやって、なくなった、って聞いたもんと出くわすと。
ほんとに、10年前なんだなあ、って思っちまうなぁ……。
[昔の遊び場の一つの変わらぬ姿に、ふと滲むのは、苦笑]
―街、美容室―
「だってぇ。どーせかたづけても人来ないしぃ?お客さん、隣町のでっかいお店に全部取られちゃったじゃないですかぁ。」
[店の中、現れた「自分」に、派手な化粧と髪の色をした後輩が舌足らずな声で話しかけている。]
「けどねー。それでも来てくださるお客さんいるし、それに、さぼりは店長が許さないと思うなー。」
[それに対し、「自分」が、乱雑に置かれた週刊誌を本棚に並べ、店の奥を見ながら言う。]
ヒントくらいあってもいいんじゃね、ってのはあるぜ……覚えてない、ってからには、なんかあるのかもしれんし。
[それこそ、精神的な要因が何か、と。
そんな事を考えつつ]
……ま、会ったら会ったで、フクザツっていうか、びみょーっていうか……な、気がするけど。
─ 海辺の道 → 風音荘 ─
……何だってのよ、いったい。
えぇ、と…時計と相互干渉してたから呼び込まれて、たとか言ってて…
で、力をもらうと…って言ってた、から。
誰か時計に力をあげた人がいて、で、その人は空間の狭間に落っこちた…?
[困惑したままに、兎の言葉を反芻する。
情報を噛み砕いて理解に至ると、青ざめて。]
…それって、すごい、大変なんじゃ。
[ずくん、あの浮遊感にも似た感覚を味わった時から続いている気持ち悪さが強まった気がする。]
「どーせてんちょーも、お客さんこないとこっちこないでしょー。そうそう、それよりもヒナさん、前からみんなで気になってたんですけどぉ、」
[からからと笑って受け流しながら、いきなり話題が変わる。]
・・・!
[この続きを、自分は知っている。聞きたくなくて耳をふさぐが、それにもかかわらず「声」は耳に入ってくる。]
[帳面を1つ手に取りページを捲る。そこに連なる文字は、人の名前と病気の症状、それに対して出した薬について等、様々なことが書かれていた]
…じぃちゃんの字だ。
え。もしかして、これ全部こう言うことが書かれてるのか…?
[開いた一冊を手にしたまま、並ぶ帳面とノートに視線を転じる。これらは言わば客の治療歴のようなものらしい。この薬では効き目が薄かったから、今度はこのようにしてみた、なんてことも書かれていた]
じぃちゃんもしかして……店に立ってた時、ずっと欠かさず記録を…?
[思わず視線が背後の座卓へと向く。そこはいつも祖父が座っていた場所。その座卓は今、自分が部屋で使っていた]
……───え。
[視線を向けた先で、ぼんやりと、座卓の前に人影が浮かび上がる。その後姿に見覚えがあった]
じぃ、ちゃん?
[呼びかけるような、問いかけるような声。そんなに小さくもないそれに、祖父は反応する素振りは見せない。ただ黙々と、座卓に座って何かを書き記しているようだった]
なぁ、じぃちゃんって。
聞こえてんだろ───。
[会いたかった姿を見つけて、足早に傍に寄って祖父の肩に手を伸ばす。けれど、掴もうとした手はするりと祖父の身体を擦り抜けて行った]
っ!
……そっか、10年前の姿だから───。
[触れないし声も届かないのか、と。話も出来ないのだと知り、表情に落胆の色が落ちた]
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