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[それは田中老人特有のお節介でしかなかった。
小春が同年代ほどの女学生が見舞いに訪れて喜ぶか――というのは、まだ数十分しか過ごしていない彼女には計り知れるところではなく。]
御嬢さんよりかぁ、御嬢さん ……ありゃァ何か違う……?
お姉さんよりか御嬢さん これでもなくて、えェとぅ――
あらァ。孝治くんじゃないの。
こんにちは。……あら、もしかして。二人はお友達?
[現れた後藤と、羊連れた女の子との間で視線は泳ぐ。
彼と話したことは幾度もあった。彼の話ぶりにも、また、彼の読む本にも、頭が良いんだねェと孫に向けるような視線と共に褒め言葉を向けることも。]
[5階を抜け、ぺたりぺたりと靴音を鳴らしながら検査に向かった。眼鏡を外して台の上に横になり、目を閉じた。
一つ検査を終え、次の部屋へ向かう。
途中技師の都合や、再検査などもあり、全ての検査が終わったのは、予定の時刻を越えた、夕食寸前の時間だった]
[己が見えるところまで来た結城の存在に、すぐに気が付く事はなく。僅かにふら付きながらも、男は松葉杖を持った片手で窓を開け放った。夕方の冷えた風が吹き込み、帽子から漏れた髪を揺らす]
……
[落ちるような青。焼けるような橙。散りばめられた白。重なって浮かぶのは、淡い緑に、銀混じりの紫に。奈落のような、暗い藍に]
……、
[あの時とは違う、と思った。
此処に入院する要因が作られた、時。
あの日は、空は暗く曇っていた。
冷たい雨が降っていた]
僕がそう思われているなら、ね。
5階の...無菌室の人かな?
会ったことはまだないな。でも、僕達とは同年代なんですね。知らなかった。
...僕は時間があるので大丈夫ですけど...千夏乃はお父さんが来るのだったよね、今日。
時間とかが大丈夫ならいいけど。
ところで、最近は体調大丈夫ですか?
あ...この娘、スカート変えました?
前は黒かったっけ...?
[男は高所からの落下事故により此処に入院する事になった。そうして生じた複雑骨折は片足を失わせるまでのものだったが、それ以外に重大な怪我はなかった。落下した箇所が自転車置き場のテントの上だったのが良かったのだという話だった。
落下事故。割合と知られた画家である男の不幸は、けして大きな扱われ方ではなかったが、メディアにも取り上げられた]
[事故。
それは、本当は事故などではなかった。
男は、その日――自殺を試みた、のだった]
[うんうん、と首の皺を深めたり薄めたりしながら頷いた。
話題の転換のように人形に話が及ぶと、ンフフ、ともったいぶったような、娘のような声色で笑い]
あらま、流石の孝治くんだ。
女の子の服装変わってるのに気づくたァ粋な男だねぇ。
そうなんだよ、今日の朝、びろうどのスカート縫い上げてね
さっそく新調してきたのさァ……
ふふ、ほォら、気づいてもらって嬉しそうだこった
[脇の椅子を指示されたのでお言葉に甘えて座らせて貰い。
何やら自分の言葉に微妙な表情をされてしまったのではて、と思い、自分なりの答えに至る]
僕は...昨日初めて話したから。
だからまだそんなに...って感じでっ。
いや僕は楽しかったし友達でありたいと思ったし。
[5階の無菌室の患者さん、については少し落ち着いた感じで]
高校生なんだ...。
中学生とは少し違うけど...行っても大丈夫かな?
[暫く動かぬままに、柏木の姿を見つめていた。
様子を窺っていた訳でもなく、風景に溶け込んだ柏木の姿が現実なのか夢なのか、その判断さえも出来ぬほどに見惚れていた、のかもしれない。]
――柏木さん……!
[自分の上げた声に驚いて目を瞠る。色の洪水に柏木が吸い込まれてしまうような錯覚を覚えた所為だった。
あの色の洪水こそが、『柏木を追うもの』なのでは、などと妄想が、過ぎった瞬間だった。
彼が気づいてくれたなら、「何でもないです」と片手を左右へ振りながら数歩、彼へと近づき]
明日も、いい天気になると思いますよ。
明日、散歩に行きませんか?
>>110
[内心を悟ったか、言葉にし直されたものに大げさに胸をなでおろした。
化学繊維の金色が巻き込まれ、微かに広がる。]
――あァ……そうだったのかい。
ちょいと驚いちまったよぅ……
もしかするとォ、――嬢ちゃんと孝治くんの間にねェ……
青春の一ページみたいなものが繰り広げられ、破り取られた後だったかしらん
だなんて。ふふ、婆ちゃん一人でドびっくりしちまった。
[質問にふむぅと唸るような言葉を喉奥から零し、
ふと思い出したように売店で購入した菓子を広げだす。]
そうさねェ、大丈夫だと思うよう。
でも、入る前に看護士さんにでも声かけて、
お見舞いしていいか聞くと尚、いいかもねえ。
ほォら、無菌室っつうと……あれだろう。なんか大変な病気が多いんだろう。
[男は幼い頃から絵を描く事が好きだった。本来色のない物に色を、あるいは物に本来とは違った色を見る――共感覚と呼ばれる能力の一種を、男は生まれながらにして具えていた。男の瞳に移る世界はとても鮮やかで綺麗で素晴らしかった。だが周囲の人間に幾らそれを伝えようとしても、同じ感覚を持たない者達には、正しくは伝わってくれなかった。故に、その世界を、出来る限り伝えたいと、男は絵に熱を注ぎ出したのだった。
そして二十代の始め、前衛寄りの風景画家として世に出た。その色彩感覚は。鮮やか過ぎる程の色彩と対照的な精密な描写は、それが合わさった独特の画風は、相応の評価を受けた。
一部には、過去の天才達の再来だとまで、言われた。男は、満足していた。誉めそやされる事ではなく、己の世界が伝わった事に。
評価する人々はその世界に魅せられてくれたのだと。信じていた]
[――柏木さん。
そう呼ぶ声が聞こえて、男ははっと其方を見た。其処には、目がない笑った人間が――否。結城、が、立っていた]
…… 結城、先生。
[散歩に、という誘いには答えず、ただその名前を口にした。結城は、笑っていた。笑っているように、男には見えた。それも、嘲笑うそれを、浮かべているように。
――全ては、妄想だった]
[世に出てから数年経って、男はより人気を得た。それから更に数年経って、男は、――落ちた。
何も描けなくなったというわけではない。絵自体が変わったわけでもない。人気が全てなくなったわけでもない。だが、少なからず、評されるようになった。画家「レン」は、終わったと。所詮インパクトだけに過ぎないような、流行のような、天才もどき、凡庸な創作者に過ぎなかったのだと]
[男は、思った。
何故なのか、と。
自分は名誉など欲しいわけではないのに。自分に才能があるとすら思っていないのに。自分は、ただ、この素晴らしい世界を、他の人にもわかって欲しかった、見て欲しかった、だけなのに。
その想いは果たされたと、思っていたのに]
このこ?このこはね。ぽーちゃん。
まっしろふわふわの、ひつじだよう。
[お人形のほおを撫でて、千夏乃は答えた。]
お人形さんは外国からきたの?長旅だったのね?
――もしかして、おばあちゃんが子供の頃のお話、だったりするんですか?
[目をまるく見開いて、問う。]
[叫ぶように呼んでしまった所為か、柏木は驚いて振り返ったように、見えた。
己は、笑っていた。
勿論、嘲笑の類ではない。
微笑んで、いた。
『何か』に怯える柏木を無意識にも同志のように感じていた。
覇気の感じられぬ柏木の声が鼓膜へ伝う。
まだ、自分が『あいつら』に見えているのかもしれないと、朧げに悟り。
明日、明るい陽光の下、会話をすれば…、彼の心に巣食うもののかたちを教えて貰えるかもしれない、などと思考を巡らせ。]
じゃあ、また明日。
[一方的に約束を取り付けて手を振り、柏木に背を向け階下へ向かうべくエレベーターへと消える。
それが、最期に見た柏木の姿、だった*]
[そうして、男は病んでいった。男の描く絵は、段々と暗い物になっていった。
男は少しずつ思うようになった。周囲の人間は、自分の世界を本当に見ても、素晴らしいなどとは思わないのではないか。綺麗だ、などとは。もしかしたら、鮮やかだ、とすらも。だから彼らは自分をくだらないとわらう]
[笑う。わらう。わらう、……]
[皆、笑っている。
皆、自分を笑っている。
皆、自分の世界を、笑っている]
[男は、そう考えるようになった]
[男は、妄想に、狂気に、取り憑かれた。その頃から、男の描く絵は変わった。男はサングラスと帽子とマフラーを欠かさないようになった。
笑う目を見ないように。笑うあいつらは色に閉じ込めて。笑わない、恐れる目を、見られないように。口を見られないように。笑わない、それすらも、笑われる、それを、避けるように]
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