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あは、あははははは!
[込み上げる笑いに男は涙をにじませた]
滑稽だな“ヌイ”。
これがお前の望んだ、終わりなのか?
逃げた先に何か見えたか?
[ひとしきり笑うと、ぱたりと真顔になった]
終わらないと知りながら、逃げたのは俺だろう。
[周りを見渡すと、そこに広がるのは*闇また闇*]
[どこからか、微かに音が聞こえる。
さ迷い歩くうちに、ほの明るい場所にたどり着いた。
見下ろしたそこには、視界いっぱいに桜が咲き乱れていた]
ああ。
[男は、かつてはあんなにも恐れていたはずの桜を、死して初めてうつくしいと思った]
[ちりつくような音がする。
男の目からは、涙がぽろりと零れていた]
なぜ?
[それが生ぬるく頬を伝う感触もなければ、手の甲に落ちる感覚もありはしない]
[ポケットに手を入れて、中身を取り出す。
華が二輪咲くクリスタルは、砂のように崩れ去った。
安堵が滲む顔でからっぽになった掌を見ていたが、しばらくすると立ち上がり辺りをさ迷いだす]
おまえは――。
[ヨシアキの姿を見つけると、にやりと笑った]
呪詛返しされたか?
[どこか遠い世界のようなそこで、“ナオ”が笑っている。
つられて男も笑い出す]
傑作だ。
[目を細め、女達の動向を見守っている]
[遠く、桜が歓ぶ声が聞こえる。
死の恐怖が、無力感が、人々に渦巻けば渦巻くほどに、花が咲き乱れ、踊り狂うように舞い散る]
だから言っただろうに。
探すべきは人ではない何かだ、と。
[運ばれるロッカを見て、独りごちる]
それを望んだのは誰だったか――?
[彼の人は、はたして満足しているのだろうか。
男は、この世界は知れないことの方が多いと嘆息した]
『どうして――』
[微かに聞こえる声。
男は視線を漂わせ苦笑する]
どうして、俺がここにいることが不思議なんだ?
[そして、もっと遠くから聞こえる声に懐かしさを覚えて呟く]
いつになったら……。
穏やかな日々が訪れるのだろう。
[何度も聞いたはずの鈴の音。
悲しげに心細げに、それでいてどこか凛とした。
それはまるで、あの人の声のようだと、男は思った]
“一つめのたましい”の前に、ゼロが
あったのかもしれない。
[自らの魂は、既にあの桜の樹に、とうの昔に吸い取られていたのではないかと]
それなら、これまでの気が遠くなりそうなほどの記憶はなんだったんだ?
[走る少女は、やがて桜の樹の元へ辿り着きその花びらに包まれる。
男は、その画を残したくなり、あたりを見渡す。
しかしそこには画材が一つもない]
[指を合わせて四角く枠を作り、風景を切り取る]
綺麗という基準じゃない。
俺が本当に留めておきたいのは、懐かしさに涙が出そうになる、そんなものたち。
[ひらひら、ひらひらと、音もなく降り積もるは桜の花びら。
あの人が、いきたいと叫んでいるような気がしてくる。
狂おしいほどに愛しいその姿を、男は眩しげに見つめる]
わらっているのか?
[風に揺れる桜。
ささやくようなその音が、男の耳に届く]
本当に恐ろしいのは――。
[目を閉じて、夜風に耳をすませた。
瞼裏に、あの景色が浮かぶ]
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