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[顔を、そして身体を焼く灼熱のコールタール。
かろうじて悲鳴を上げるのは堪えたけれども、その後の記憶はなかった。
誰かに、何かを問われたような気がするけれど、それは定かではなく。
白い靄の向こうに見える、微かな記憶]
[意識を失った女が再び取り戻した時、軽業師の姿は傍になく。
皮膚がひきつるような痛みと、爛れた肉が放つ異臭に焼け焦げた眉根が寄った]
顔……。
私の、顔――……。
[そっと。
手で触れる]
……… ………っ!?
[瞬間。
爛れた肉が発する痛みに、飲み込む悲鳴。
身体を支えるのも辛いと言う様に、両手をペタリ、床に付く]
あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″
[伏した女の唇からは、言葉にならない慟哭が床に落ちる。
慟哭を漏らす唇は、何時しか大きくその顎門を開いて。
粘膜の赤を誰に見せるでもなく覗かせる。
そして――…]
[メリっと嫌な音が一つすると、それを皮切りに唇が大きく裂ける。
裂けても尚、広がる顎門。
紅い噴水を撒き散らしながら、これ以上ないと言うほどに開いた其の口の中からにょきっと生える白い腕。
腕に続き、ずるりずるりと古い皮を脱ぎ捨てて新たな顔や身体が生まれ出でる姿は、まるで蛇が脱皮するかのよう]
[足の先まで、全てを傷つく前の姿を取り戻せば、はぁ……と大きく溜息をついた。
蝮の女と呼ばれる女の異能力の一つが、この脱皮による超再生である事を知る者は少ない。
だけど、今はもう滅んだはずのあの施設にいた頃と比べて、
生まれ直すのに酷く時間と力を要するようになってきたのは、命の灯火が付き掛けているからだろうか。
それでも――…]
まだ滅ぶ訳にはいかないわ。
あの子を……までは。
[掠れた声で一つ呟いて、今は消耗した体力を回復するために、ゆっくりと眸を*閉じた*]
[鳴り響く無線機の音にはっと顔をあげる。
内容は、どうやら例のモノを届けてくれると言うもの]
……二人で楽しんだあの宿で待っているわ。
報酬はその時に。
ドロテアの首、くれぐれも無くさないように、ね。
[歌う様に囁いて、無線を切る。
サーディが来る前に、この抜け殻を処分しなくては。
それから新しい服も。前のモノは、コールタールの煤けた匂いと、蛋白質の焦げる嫌な匂いでいっぱいだから]
[抜け殻の始末をしながら、女は呟く。
まるで恋人を待つ少女のような、そんな軽やかさで]
……もうすぐ。
もうすぐ、また逢えるわ。ドロテア――……。
[もうすぐやってくるだろうサーディと、彼女の持つ生首に思いはせる。
にぃ、と。
歪に口端を歪めて、女は愉悦にうっとりと眸を*細めた*]
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