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― 26日 ―
[こり、と口の中で音をさせるのは、写真館でもらった砂糖菓子。少しだけ、春の香りがする]
明日は雪が降りそうね。ね、モコ。
[ゆるりと空を見上げる、あかね色の時間はあとわずか。
南天のお守りが、羊の首でぷらぷら揺れる**]
お礼を言うのを忘れない。忘れない。
[繰り返しながら歩く。ぶつぶつぶつ。
左手に抱く羊のぬいぐるみ、昨日までのシロツメクサの花冠よりも大きな、白い花ばかりの花輪を首にかけている]
骨の人、捜してあげて。
空き地にもう置かないでって言わないと。
[羊の首で、お守り袋が揺れている]
[長靴がこがこ言わせて向かう先、黒い写真の写った場所]
こんにちはー
[軒下にかかる看板は夢美堂。店主には一度も名前を教えてもらわなかった。だからいつでもここは骨董屋さんで、店主も骨董屋さんだ]
誰かいますかいませんかー
[いつも店先にいる骨董屋さんの姿は見えなくて]
お出かけ中かなあ。
[ポケットから黒い写真をとりだして、同じように見える場所を探しながらその場をうろうろ*]
[骨董屋の店の前うろうろしていると、猫が出てきて見上げてきた]
猫、こんにちは。
骨董屋さんお留守なのね? 店番えらいね?
[猫は、言葉を聞いてもあくびをするばかり]
おじいちゃまは? お留守?
[中を覗くが人はいないようだ。
きょろきょろ中を覗いて、抜き足差し足でお店に侵入する。丸見えだが]
……うーん。
[手に持った写真と店の中を見比べる]
あの辺、かな?
[見上げるのは棚の上。ちらりと袋の端が覗いている]
[羊のぬいぐるみの首から白い花ばかりの花冠をとると、棚の前で背伸びする――届かない]
無理。
[言って、首を振った]
何か台ー
[台っぽい物はたくさんあるが、踏んだら壊れないか心配そうな様子の物ばかりに見える]
壊したら怒られる。
[恨めしそうに見る骨董品の数々。
それくらいの分別はあるから]
……とりあえず、ここ。
[棚の上は諦めて、花冠を置いたのは――いつも店主が座る場所から少し視点を転じた、物の影]
わあ、骨董屋さん、おかえりなさい。
[丁度マニキュアに手を伸ばそうとしたところ。ちょっぴりびっくりして、振り返った]
これ塗るの?
じゃなくて、お花、お供えに来ました。
[マニキュアから、花冠に視線を転じて]
ばあちゃんが、そうしなさいって言ってたのよ。
そうかー
[マニキュアを塗ったときの様に、指先にふうと息を吹きかけて]
うん、かんしきした写真、ばあちゃんが見たらね、そうしてあげなさいって言ってた。
ここの黒いところに供えてあげなさいって。
[黒っぽい夢見堂の写真を見せつつ、届かなかったからここにしたの、と示す花冠]
へんね、お花供えるのはお墓にするのにね?
[相手の笑みに、ゆるりと首を傾ぐ]
わかんない、他のはきれいにとれてたよ。お弁当屋さんも。
[自分でも首を傾げて]
たまにそういう写真あるんだって。見えないものが写るんだって。そう言ってた。
[相手の心の内など気づきもせずに。
骨董屋が花冠を供えてくれると言えば、目を丸くして]
本当? ありがとう!
[そこに飾る意味など知らない少女が喜んだ]
[ゼンジの手で移される白い花。
棚の端から見えていた袋が]
――あ。
[ゆっくりと。
ゆっくりと滑り落ちて。
小さな乾いた音が響く]
これ――
[かつんと長靴にあたった小さなものを屈んで拾い上げる]
これ、骨の人。
[言葉は疑問形でなく、こぼれ出た**]
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