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[この年にも、弁士は村を訪れた。
立ち寄った診療所で求めるのは、うがい薬の処方。]
… そうですか。
グリタさんたち、戻られませんか。
[おおきく開けていた口を一度閉じて、
老境の医師との会話の続きを受ける。
消えた少年の家族は待合室から去ったあと。]
[昨年、3人が神隠しにあった後、
弁士は村に半月ほど滞在していた。
が、…いなくなった人びとを探すでもなく、
しばしば神社の境内に佇み山を見ていた。
遠くへ手を振るしぐさをすることもあった。]
かみかくし。――垢抜けた娘さんが、
『呼ばれた』とか言ってましたっけ。
こちらからは、見えませんね。
あちらからは、見えるのでしょうに。
近年…フィルムが散逸してしまって、
上映できない演目が多いんですよね。
[話の合間。弁士はふと、眉尻下げる笑みを佩く。]
たとえば、『忠次旅日記』とか。
["赤城の山も今宵限りか…"
失われた名作を、医師は残念がったろうか。]
無声映画も、活動弁士も、じわじわと
かみかくしにあっているのかもしれません。**
[ステッキを携える白いフロックコート姿。]
いつの間にかみんな帰ってくるといいですね。
[若旦那へ声かけて。
エビコのもとから駆けだす子とすれ違いざま、
狐面かかる頭をぽぽんと撫でやった]
ことしの演目は、『突貫小僧』ですよ。
[語る演技はこのいたずらっ子がモデルなのだと
さて、何人の村人が気づいてくれるだろうか。]
是非にいらしてくださいな。**
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