[生まれた日も、死んだ日も]
覚えていてくれるなら、それでいいじゃない
[がり、とコーヒーカップの縁を齧る。
ほとんど冷めた黒い飲み物は、香りもほとんど飛んで悲しいものになっていた]
おかわり、お願いします
[家に帰りたくない時にだけ、この喫茶店に来る事としていた。季節の変わり目だとか、憂鬱になるとき。喧嘩をしてしまったとき。どうしようもなくなったとき。
それが、増えてきて。
一回ずつの滞在時間も増えてきて]
帰りたくないなぁ……
[二杯……いや三杯目のコーヒーを睨み付ける。
これを飲み終えたら席を立たなければならない。
マフラーをしっかり巻き直して、寒空の下、家に帰らなければならない。
手を伸ばすは白い角砂糖。
ぽちゃんと音たて沈むは雪のよう。
ゆっくり、ゆっくりと溶けて、もう元のコーヒーには戻れない]