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[夏休み初日。
昨日と同じく野球部に混ざって校庭を走り回っている]
……?
[ふと、プールへ近づく駐在さんと教師の姿が目に止まった。
朝から学校にいたクルミは、アンが失踪したという噂をまだ聞いていなかった]
[昨晩アンコという女子生徒が姿を消した、強面の駐在は...にそう告げた]
ああ、確かに居ましたね。肝試し大会にそんな子が。
良く来るのかって言われても、俺、ああいうの初めてで。
すみません、お役に立てなくて。
はい、思い出したことがあったら知らせます。
[駐在の後姿が角の向こうに消えると、ひゅうっと口笛を吹いた]
やるね、夏の駆け落ちか?
[進学組は受験勉強、上京組は山に海に想い出作りに走り回っている。知り合い働くジャズバーでクラリネットを練習させてもらうのは楽しかったが、店の開く夜半まで時間を潰すのは、娯楽の少ないこの町では一苦労だった]
ちょうど良い暇つぶしになりそうだな。
あの子、何年生って言ってたっけ。
[誰かを捕まえて話を聞こうと、学校に足を*向けた*]
[ボールを追いかけるフリをしながら、プールへと近づく。
聞き耳を立てて細切れに認識されたのは、『アンの姿が見えない』、それのみで]
[無意識に、頬を指でかいていた]
[部活を終えても、まだ日は出ている。
長く伸びる影に追われるような気持ちで、制服に着替えたクルミは二年生教室へと向かった]
誰も、いないの?
[静かな教室に声は吸い込まれる。
一人でアンの家へ行く気にはなれず、だからといって、コハルを誘いに行くことすら、何となく躊躇われた]
怖いの、かな。
それとも、わくわくしてる?
[黒板に近づいて、白墨を手にする]
[手持ち無沙汰で、黒板に絵を描いた。
ほんの少しだけ手をはたいて、窓際の誰かの席へ腰を下ろす。
机の上に置いたスポーツバッグに頭を乗せ、窓の外へ視線を向けた]
あつ……。
[夕日はクルミの体表を徐々に熱くしていくが、それに抗うだけの体力が今はなく*ぼんやりと目を閉じた*]
[どこに居ても暑いのだ。それならいっそ学校に行ってみようか。と思ったのだった。そういえば水泳部に知り合いがいたっけ。運動は苦手だけれど水にプカプカ浮いてるのは好きだから。そう思って学校への道を辿る。しかし。]
誰もいない?
[辿りついた先。プールサイドは、昨日とはうって変わって静まり返っている。]
もしかして。
いなくなったのは、アンちゃんなのかな……。
[ここまで来る道すがら、近所の店先で、あるいはバス停で、人々の噂話を漏れ聞いていた。女の子が一人、居なくなったというのだが。]
……。
[めずらしく部活ももう終わっている。静かなグラウンドの向こう、生徒たちのいないがらんとした校舎を眺めていたが。なんとなくそちらへ*足を向けた*。]
[教室。耕一は英語の問題集を机の上に出して、頬を机に押し付けながら目で文章を追い続けている。だが捗らない]
――本気でいねえんだな。
[ぽつり呟いた。
何時もの如く、窓の外を俯瞰。昨日まであった、取り留めの無い喧騒が弱い気がする。
少なくとも日常の風景から一人分が切り取られている。
熱心に部活に励んでいた少女。同じ教室で幾度も見たその顔と声]
――消えた?
[ナオがその話を聞いたのは、図書室の司書さんからでした。静かな室内に声にはよく響いたものですから、唇の前に指を立てて注意されます。まだ噂に過ぎないのだから、と。]
ああ、ごめん。
[カウンターに身を乗り出し、声を顰めます。]
……それで?
水泳部の子が。ふうん。
ああ。あの子か。
可愛い名前だよね。深海魚みたいで。
や、冗談。
[淡々とした口調は興味なさそうにも聞こえたでしょうが、顔にはいつもの笑みが浮かんでいて、眼鏡の奥の瞳を真っ直ぐ相手に向けられていました。]
[薄く闇に包まれた室内は、他よりいくらかヒンヤリとしていました。新旧入り交じった紙の匂いの中にいると、どことなく違う世界にいる気分になります。
家出や無断外泊の線もあるが、目撃者がいないこと。今までそんな兆候はなく、彼女が部活を休んだ事もなかったこと。司書の女性は色々な事を話してくれました。]
そっか。
早く見つかるといいな。
……あ、本。借りていきますね。
[そう断りを入れるとカウンターを離れてました。雑多に並ぶ標題を順々に眺めながら書棚の合間を緩歩します。]
これにしようかな。
[やがてナオが手に取ったのは、*とある伝承の本でした。*]
[余りに酷い脳の回転に痺れを切らして、問題集を鞄に詰め込む。
別に少女が一人消える理由など別に幾らでも想像できた。
その上、今夜もバイトがあった]
親御さんは心配してんぞ。絶対。
[それだけを毒づいて、教室を出た。
階段付近まで辿りついた後、気配にふっと振り返る。
逆側から赤毛の少女が最前まで自分のいた教室に入っていく。
ソフ部の女子だ。失踪した少女と幾らか親しかった気がする]
――親だけじゃねえ、けど。
バスがなきゃ、村の外にもいけないしね……。
[薄ら目を開く。
失踪を未だ信じ切れず、否定とその否定を繰り返していた]
アンはいいこだしね。
家も近いし?
連れ去るような悪い人がいたら、誰かみてるよね。
[いつの間にか、蝉の声は少なくなっていた]
何か、悩んでることあったのかな。
[窓に近づいてプールを見つめ、昨日のアンを思い出す。
特に違和感はなかったが、それは自分が鈍感なだけなのかもしれない]
わたしのせいでなにかおきてたらどうしよう。
[わしゃわしゃと自分の頭を掻いて、踵を返す。
急ぎ足で教室に戻って、窓辺の少女に声をかけた。]
……何を一人でぶつぶつ言ってんの。
[それは全く人のことは言えません]
[声に振り向いて、おはよ、とその日初めて会った用の挨拶。
校庭に視線を戻した]
[しばらくしてからもう一度振り向いて]
ワタシ!?
……アン、見た?今日。
[本を借りて図書室を後にしたナオは、ひとり、廊下を歩んでいました。
窓の外には昨日と同じ――けれどどこか異なる光景が広がっています。喧騒は一回り、小さいように思えました。]
さて。
……どうしたものやら。
[首を捻りながら、先程借りたばかりの本を開きます。
――ハラリ、何かが舞い落ちました。]
……………っと?
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