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………、…―――
[死者に触れた手は静かに離れ、震えごと手の中に握り込む。溶けぬはずの雪と氷は赤黒い液体の熱に少しだけ溶けていたか、それすらも共にまた冬の女王に抱かれ凍るのだろう]
………僕もテントに戻ります…
[カウコの向かった先をちらと見てから、周囲の者たちはどうするのだろうかと視線だけが問う。ビャルネを運ぶ人手を求められれば、車椅子の膝の上ならと*申し出るだろう*]
[藻掻くほどのちからも失ったビャルネの右腕が
誰の何へと反応したものか――ぴくりと動いた。
彼のひくつく指先が、虚空をさまよい赤を落とす。
或いは、ただかき集めようとしたのかもしれない。
流れ出すいのち、やらぬと宣されたとどめ、望み。
然しその指は、宙へ何か文字を記そうとする態とも、
その場にいる何者かを指さそうとする態ともとれて]
――…
[蛇遣いは、賭けの結果を見出そうとする面持ち。]
手遅れ。 そうかもしれん。
だが、――村もそうかね? 違うだろ。
[呆と言うカウコへは肩越しの応答。ビャルネの
折れ砕けた腕を握り、意識を保たせようとする。]
…レイヨ、ビャルネに―― 否、
[車椅子を軋ませる青年の名を呼びかけ…やめる。
彼の家、卓へ薬草扱うらしき設えは見ていたけれど]
ウルスラ先生、居るかね?
気つけ薬か何かを――――
あ、ッ…
姉様?どうかなさった?
[ぐねりと動く蛇と、視線巡らす人へ不思議そうに問いかける。心なしか、期待に満ちた声色。。
視線で誘われればその答えもまた瞳の奥で。
足跡は、蛇の女と連れ添うようにもう一つ]
…あら、まぁ……
[鮮血は、望んだままの赤、紅、朱──…。
白い髪にはとてもお似合いだと、口元は緩く紡ぎ。止めに入るトゥーリッキには聊か恨みがましい視線も向ける]
私が赤好きと言ったから?見せてくだすったの?
[来いと誘うた蛇の瞳に問いかける。とてもとても嬉しそう。共にビャルネの傍にそろりと足を偲ばせると、つい、と指を這わせて赤を舐めやる]
彼にも言ったのよ。赤が好きって。覚えててくれたのは、嬉しいわ。
[ビャルネの喉に白刃が振り下りる瞬間も、伏せ目がちの瞳は緩く柔らかく見つめます]
[背に受けた、イェンニの恨みがましい視線には
気付かずも―――確信と必要を持って長引かせた
断末魔とその赤は不満をそのままにさせたろうか。
もはや骸となったビャルネに詫びて触れるレイヨの
横顔をしばらく眺めていて…やがて吐息を漏らし]
戻ることが必要なら…そうするといい。
[運ぶ手助けに関しては、黙して被りを振る。
必要なのはこの場で雪を掘って埋める人手であり、
レイヨがその作業に適しているとは思えずに――]
[テント内にも漂う険呑な雰囲気。
嫌な予感がした。
テントを出て、見つけたもの。
それは――]
っ、まさか
[雪の白と血の赤のコントラスト。
熱を持っていた肉体が、冷えた肉塊に変わる。
獣が「そうなる」のは何度も見ているが――]
ビャルネが狼遣いとでも?
……。
このまま、ここにおいていくわけにはいかないの?狼が食べてくれるわよ?
ドロテア様の変わりになりましょうに。
[去るカウコには、小さく嬉しそうに「赤をありがとう」と。レイヨにもやはり視線だけで見送りを]
ビャルネ様から姉様の潔白を聞いたのよ。
それをあの人が殺したのね。…不思議。カウコは、それを知ってたのかしら。ビャルネが、彼に言ったのかしら。
それとも、たまたまかしら。
…どうだろうかな。
機会をお前から奪わずにいたかったのは、確かだ。
[ビャルネの肺から抜けきらぬあたたかい空気が、
かぱ、ぐぱ、とまだ喉の刺創を泡立たせている。
しばらく見詰めていたが…イェンニを振り返り、]
彼――… カウコかね。それともビャルネ?
[尋ねながら、両方だろうかとも含む。
妹分の後ろへ獣医たるウルスラを見つけて眉を下げ]
…先生。
ビャルネは妙なことを言ってはいたが――
カウコによ。ビャルネにも言ったかしら?
でも、どうでもいいことだわ。
[ちろり、ちろり。まだ温い血は口に優しい。ウルスラの姿にもにっこりと]
ごきげんよう。カウコがやったのよ。
どうしてかしらね。どうやって、狼使いと思ったのかしらね。
[トゥーリッキに声をかけられる。
相棒は襟巻の如く蛇遣いの首に
巻きついているだろうか]
妙なこと……ビャルネから聞いたので
私が知ってるのはひとつだけ、だけどね。
[狼遣いに協力する者の存在。
それだけだ。
イェンニの挨拶には緊迫した空気の中で
毒気を抜かれたながらも]
この状態で、わざわざ愉しみで殺す奴がいるとは
思えないけどねえ。
自分の命さえ危うい、こんな時にさ。
――うむ。
イェンニにそう告げたと…あたしもあの後聞いた。
[潔白。まじないかどうかも知れぬそれ。
イェンニの言をついで、ウルスラへも伝える。
"あの後"、は彼女と自身、
そしてビャルネの三人で話した後を示していて]
どう思う、先生。
あまり口にせぬ方がよいかね…
或いはまじない師が死んだかもしれん、とは。
…村の中まで狼がうろつきだすと、
家から出られず孤立する者が出てしまうぞ。
ドロテアの代わり――と言ってやるな。
長老さまも仰っていたろう、代わりはいないと。
[老爺の唯一の慰めだろう言を思い起こしながら、
イェンニを窘める。血を舐める所作は窘めぬけれど]
…カウコに、か。
ビャルネが殺されたのは…あたしの所為だろうな。
[胸裡へ確かめるよう、零す。ビャルネの杖を持ち]
あたしはカウコへ、あたしを潔白だと
言ってくれてる者が居るとは言ったが…
ビャルネがそうだとは、教えなかったんだ。
[偽りなき感慨のままに、白蛇に触れつぶやく。
冷える屋外――それはまた動かなくなっている。]
まじない師の可能性を見ていたら、
カウコは白髪頭を殺さなかったかもしれん。
ってことは…イェンニは「白」ってことかい。
[確認するように、もう一度尋ねる]
「黒」であれば、言う必要もあるだろうけど。
「白」だっていうなら無闇に言いふらさない方が
いいかもしれないね。
…まじない師については、
ある意味もうバレてるわけだしねえ。
ビャルネも容疑者である以上、
まじない師の可能性もあるわけでね。
ちょっと頭があるなら、誰でも気づくさ。
[可能性があるからこそ、ビャルネも生かされていたのだから]
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