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[ひとを、ころした]
[イェンニは、人間では無くなってしまったのかもしれないけれど。それでも、彼にとっては、人だった]
[絶命し、足元に崩れ落ちたイェンニのガラス球のような双眸が、自分を見つめている]
………っ。
[後悔は、していない。いや、してはいけないと、ぐらつきかけた気持ちを立て直し、イェンニを見つめ返す]
[掌に残る、鈍い感触を]
[胸に広がる、にごった感覚を]
―――ッ。
[振り切るように奥歯を噛み締め、血まみれのナイフを指から剥がすように、ゆっくりと、ゆっくりと、手を開いていく]
[彼の手から滑り落ちたナイフが、床に落ちて。甲高い金属音が、居間に響く]
[緊張が解けたのか、一気に体中の力が抜け、イェンニの血だまりに膝から落ちた]
[途端]
………!
[ざわり]
[全身が総毛立つ、感覚に、背中が跳ねた]
[ざわり]
[毛穴という毛穴から、冷たい汗が噴出す]
[未だ、じくじくと痛む脇腹の傷が無ければ、発狂していたかもしれない]
[――得体の知れない恐怖が何なのか]
“おまえさんも、向こうへいっておいで”
[その声と共に、知る]
―――――!!
[狼に変貌したヴァルテリが、ユノラフの喉笛を食いちぎる様を目前にして]
[――この、圧倒的な恐怖に晒されて、マティアスもウルスラも、死んでいったのだろうか]
[仇を目前にしながら、身体が動かない]
[ニルスに目をやると、信じられない、といった様子で小さく首を振るのが見えた]
[再び、ナイフを手に取ろうと、手探りで探すが見つからない]
[その間も、ヴァルテリだった狼が自分達を見つめているのを肌で感じながら]
[それでも、指先は、必死でナイフを求めていた]**
“見逃してくれるのなら”
[場違いに、ゆったりと喋る狼の声が耳に届く]
――それは……出来ない。
[声も無く呟き、彼は首を振った。……指の先が、何か固いものに触れた]
[ずっと、考えてきた。自分がここにいる意味を]
[最初は、供物として命を捧げ、災いを退ける為だと思っていた]
[だけど、生きている]
[生きている――いや、生かされている意味を、だから、考えた]
[そして出た答えが、生きて人狼を食い止め、この村を守る事、だった]
[ニルスが会話でつなぎ止めている――]
[彼は、狼に気づかれぬようにナイフを手に取った。その間に、狼は身を屈め、今にも飛びかかろうとしていて]
[じり、と腰を浮かせる]
[機会は、恐らく一度だけ]
[――今度こそ、死ぬかもしれない。だけど、掛けるしかない]
[じくじくと]
[じくじくと]
[傷口がうずく。塞がりかけた傷が、開いているのだろう]
[ならば……]
[狼の死角から、ニルスの足元めがけてナイフを滑らせ]
っ!
[狼に、飛び掛った。何かを握り締めているように、装って]
[血まみれの身体だ。どうせどう動いても、匂いで嗅ぎつけられてしまうし、傷の痛みで動きも鈍い]
[だったら、ニルスが動きやすいよう、囮になればよい事――]
[上手く、いったようだ。ヴァルテリの意識が向かう先は、自分]
[気づかれるのも、避けられるのも、分かっていた。ヴァルテリの逃げる先に、椅子が飛んで来たのは予想外ではあったけれど――]
[椅子の後を追うように、ニルスがナイフを構えて飛び掛るのが視界の端に映る。彼はありったけの力を込めて、狼の毛皮を掴んだ]
[狼の喉にナイフが突き立てられ――手の中の毛皮が、縮んでいく]
……っ。
[狼の姿は、みるみるうちに見慣れた老人のものへと変わり]
[何かを告げようとその口を動かすも――こぼれるのは言葉ではなく、ごぼごぼとあふれる血の泡で]
[己の手に、僅かばかりの毛を残し、老いた狼は息絶えた]
[長いような、短いような。悪夢のような時間は、終わった]
[自分と同じように、友を失ったニルスだけれど、掛けられる言葉は……みつからない]
[視線が、使用人部屋の方に向き、彼は音もなく呟いた]
――終わりましたよ。
[……と]
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