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誰か、開けてー!
[誰もいない真っ暗闇の中、どんどんどんどん、と玄関を叩く。
拳は痛くないのに、血が滲んでいた]
誰か、誰か、誰かーーー!
[何度も何度も繰り返す]
おやおや。
こうして意識があるということは、私、死に損なったのでございましょうか。
いえ……どうやら、これが死後の世界というもののようでございますね。
これまで大勢の方をお送りして参りましたが、自分が来たのは初めてでございますよ。
あれは……
[扉を叩く音]
……ビセさん。
[暗闇の向こう、助けを求める悲痛な叫び声]
もう、怯える必要は無いのですよ。
苦しむことも、悲しむことも、もう二度と……。
[近づくことはせず、立ちつくしたまま*呟く*]
[扉を叩く手を止め、足を上げて蹴り上げようとした]
痛くない?
[怪我をしたはずの左足を軸に、一本足で*フラフラ*]
ほうほう。
生きておいでの皆様のお姿が見え、お声が聞こえますね。
不思議なものでございます。
つまり……私は死んだ後も、こうして皆様が右往左往なさるご様子を、拝見できるというわけでございますね。
これはなかなか、ありがたいことでございますよ。
―蔵―
[古い映画のように褪せた色が、そこにはあった。
小さな女の子が、蔵の中で戸を叩いている]
『お父さんお母さんごめんなさい。
ビセ、いい子になるから出してー』
[座り込んでそれを見つめるは享年十八歳の女]
呼んでも誰も来ないですよー。
[遠く聞こえる声に、呟いて]
身の危険に晒されながらも、互いを守ろうと行動される様は、美しいものでございますね。
ですが、いつしか毒は染みて参りますよ。
互いの心に、疑いという、毒が。
毒は、目に見えぬ形で忍び寄ります。
食べ物に、飲み物に。
何気なく触れた針に、包丁に。
シャワーヘッドに、何か仕掛けられてはおりませんか?
顔を拭うタオルには、何も染みこまされてはいませんか?
皆様が守りたいとお考えなのは、どなたでいらっしゃいますか?
その方が手渡して下さる物へ、ためらいなく触れることはお出来になりますか?
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