情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了
――夜半。雪原の祭壇へ注視していた者がいたなら、
狼の中の一頭が供犠へ飛びかかるのを目にしたろう。
いつしか祭壇を押し包むように取り囲んでいた狼は、
その跳躍を皮切りに次々と横たわる女へ群がって――
ドロテアの姿は、すぐ黒灰の陰に隠れ見えなくなる。
遠目にも、夜目利かぬひとの目にも、
天に靡くオーロラよりもすこしだけ
深く匂い立つその色は見分けられる。
ばしゃり、
熱泉の如く噴きあがる、鮮血のいろ。
白々とも明けぬ夜が、時間ばかりは朝を迎える頃に
狼のいなくなった祭壇を確かめに行く者がいたなら、
狼の飢えを示す如く丹念に舐め取られた薄い血痕と、
踏みにじられた儀式用の幕を見つけることができる。
ドロテアのそれとわかるものは、肉片も、骨片も、
纏っていた衣服の切れ端すらも残されてはいない。
村が捧げた供犠は違わず受け取られ――
ひとときを永らえた者たちの夜が*来る*。
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了