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―クランクアップif―
[車内が数台の照明機器によりホワイトアウトし――
「はい!おっけー!」という監督―二宮―の声で、眩しさから解放された。]
……やっと…、終わった…。
[緊張から解放された瞬間、力が抜けてしまってその場でへなりと床にしゃがみ込んだ。
最後のシーンは一発で決めたかったのに、セリフもそんなに長くないのに、3回ほど動きが止まってしまってやり直ししてしまった事が悔しい。]
(…あんな、あんな風に目の前で同級生の女の子に泣かれるとか、こっちが緊張する…っての)
[それだけ、村瀬の演技が真に迫っていたから、なのだけど。
演劇部でも無い自分が、そう簡単に演じれるはずもないのだ。うん。]
[脚本という脚本はほとんど用意されておらず、重要個所以外のセリフや動きはアドリブおっけーという監督の指示の元…色々と動いてしまった事を思い出すと、今更恥ずかしくなってくる。]
(後で、村瀬さんに謝らないとな…)
[そんな事をぐるぐる考えていると、須藤が差し入れだと言って飲み物を配り出した。
それを受け取る為、ようやくセットの電車から離れるのだった。]
―クランクアップif その後―
[撮影終了の熱気が収まらぬ内に、僕は村瀬さんに謝らなければいけない事がたくさんあった。
例えば、彼女が涙を流す場面で、言うべき台詞が出て来なかった事。
目薬を使わない演技だったため、何度かやり直すという事が心苦しく、申し訳ないと感じてしまっていた。
そして、もう一つ。
最後に言う台詞は、「村瀬さん、ごめん」というはずだったのに、役柄に感情移入しすぎてしまったのか何なのか、あろうことか、僕は彼女の名前を言ってしまっていたのだ。]
監督には突っ込まれなかったけど…、なんで、そう言っちゃったんだ…
[うああああ と頭を抱えたくなるくらい恥ずかしい。
村瀬さんはその言い間違いに気付いているはずで、彼女にそれをどう謝ればいいやら、見当もつかず。
それ以来、視線が合う度に照れくさい。以前は普通に話せていたのに、なんだかぎこちなくてもどかしい。
そんな様子を、シンヤにからかわれる日が来るとは、想像もしていなかったのである。]
―END―
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