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(”お父さんの跡を継ぐんじゃないの?”)
[記憶の底から浮かぶ声。
継がない、と今よりも若い男の声が言う]
(”ふーん、じゃあ進路どうするの?”)
[男は短い沈黙を返す。
そして、動物を助ける仕事がしたい、と言った]
(”じゃあやっぱり跡を継げば良いんじゃない?”)
[嫌だ、と男は即答する]
………ここは…?
[気付けば住宅街を抜け、公園とは違う広い場所へと出ていた。
見覚えがあるような、そうじゃないような。
どこか懐かしくもある場所]
[思い出せそうなのに、何かが頭の中で引っ掛かっている**]
[開けた場所を歩いてみる。
まっさらな新雪には足跡ひとつ無く、男が歩く度にその軌道が記される]
……ドッグラン…。
[柵に囲われた広場には犬用の遊具がいくつかあった。
高校の時の通学路にあったドッグランに良く似ている]
………
[犬を遊ばせたことは無かったが、通る度に駆け回る犬達を眺めていた。
ドッグランを駆け回る犬達はいつも楽しそうだった]
[けれど]
……あの犬は、どうなったんだったかな。
[沢山の犬が集まるドッグランは、楽しいだけの場所ではなかった。
飼い切れなくなった飼い主がドッグランで犬を遊ばせたまま迎えに来ない、なんてこともあったのだ。
餌も得られず、気付いた時にはよれよれで隅に伏せっているのを見かけたこともある。
その時はドッグランの管理者に伝えて対処してもらったのだが、どうなったのかまでは聞いていない]
獣医ではなく、動物達を助ける道……。
[ここは、男が目指そうとした道の切欠]
……近くは無いな。
[片方は遠い。
声の高さから女性だろうと推測出来るのみ。
それでも大体の方角は分かりそうだった。
この場所は反響が少ない。
新たに積もり始めた雪を踏み締め、声のした方へと男は歩み行く]
…姿は見えないが…
[もう片方は視界の中に無いにも関わらず、声ははっきりと届いていた。
どんな原理かは知らないが、声だけは距離を超越するらしい。
その声、と言うか口調に聞き覚えがあった]
片岡君か。
[恐らくは狭間に、と思考が巡る]
………
[元気そうだ、とは心の内の声。
独りではないのだから何とかなるだろう、とあちらは後回しにして。
微かに聞こえた、一度きりの声の方へと歩み進めた]
───……
[十字路まで来て三方向を見遣る。
さてどれが正解か。
大粒の雪が降りしきる中、人影が無いかと瞳を凝らした]
[来た道を振り返る。
そしてそのまま男は首を傾いだ]
………
[声は何故か後ろから聞こえた、ように思う。
この辺りは多少入り組んでいるらしい]
…一本向こうか…?
[位置の大体の当たりをつけたものの、土地勘が無い場所。
辿り着けるかは甚だ疑問だったが、ひとまず歩くことにした]
………
[楽しそうな声。
どうやら片岡は箔源のところに居るらしい。
妙にテンションが高く感じられるのは近縁だからなのだろうか]
…元気が無い、か。
[確か箔源は兎を追ったはず、と思考を巡らせる。
大方兎は逃げたのだろう。
そのせいとも考えられるのだが]
───……
[その程度で落ち込むような青年には見えず、疑問が残った]
…なまじはっきり聞こえるせいで位置が分からんな。
[距離を無視した声を頼りに出来そうにない。
ひとまずこれまで探していた声の主を探すことにした。
当たりをつけた場所を目指し歩いて行く]
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