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時計………
[手を伸ばして、触れる直前で止めた。硝子盤の欠片が周囲に飛び散っている。剥き出しになった文字盤もひびが全体に入って、持ち上げたらぽろぽろと崩れそうだった。
ベルトは傷だらけながら形は保っていて、改めて手を伸ばし、掴んだ]
…っ 冷たい
[やはり文字盤は半分ほど崩れ、中身が見えてくる。精巧な作りだ。こぼれない様両手を使って、目の前まで持ち上げた]
……綺麗なのに
[こうなる前から壊れていたことは知らない。未だ自分の腕時計を持ったことのない少女は首を傾げ、破片の大きいものを拾って掌で包み込んだ。
それを枕元に置いて、その日は眠りについた。カチコチ、カチコチ――聞こえるはずのない秒針の音が夢の中で響き渡っていた]
朝
[今朝は珍しく看護師が来る前に目が覚めた。カーテンを引いて、窓を開けた。ベッドに戻り、枕元の棚の上、ハンカチの上に置いた時計をぼんやりと眺めていた。
虹はもう消えかかっていて、少女の目には留まらなかった]
なおらないかなあ
[検査の関係で今日は朝食をとることが出来ない。伸ばした指で、時計の残骸をつつく。人差し指に小さい傷がついても気づかずに、もう一度毛布の中に潜り込んだ]
こういうの得意な人、いないかな…
おばあちゃんとか
あと男の子ってこういうの得意かな
あと…
[絵を描く人。もしかしたら、彼ならば、直せるかもしれない**]
[点滴装置を引き、深緑のパジャマを着た少女はゆっくりと廊下を歩く。昨日は会えなかった、とラウンジへの扉を開き、陽射しを正面から浴びた。
息を呑み、扉をまたすぐに閉じた。ぼたんがそこにいて、声をかけられれば答えただろうが…何もなければ、そのまま背を向けて、また入院棟内を歩き出す。
顔見知りと出会えば、挨拶をして、やがて公衆電話のある一角へたどり着く]
[公衆電話にテレホンカードを飲み込ませる。携帯電話も持っているけれど、使用場所は限られているし、メールの着信すらほとんどない。病院に入る前に電源を落としてからそれっきりだった]
6 …… 2
[確かめるように呟きながらダイヤルを押す。あとひとつ。最後の番号を押せば、回線が繋がる―――]
………はぁぁぁぁぁ
[知らず止めていた息を吐き出した。しくり、と点滴の針が刺さっている場所と、胸が痛みを訴える。テレホンカードをしまい、窓際に用意された椅子へ腰をおろした]
…なんで、電話しようと思ったんだっけ――?
[食事をとっていないせいか、目がまわりだした。多分もう少し時間があるはず。少しだけ、休んでいこう**]
[少女の家族は、呼び出されでもしない限り病院に顔を見せることはなかった。入院も退院も、荷物を抱えて、バスに乗って、全部一人だ。
何かあったら連絡するように。
そういって渡されたテレホンカードは、まだひとつも穴が開いていない]
…よし、行くか
[気合をいれて立ち上がる。エレベーターを使って向かうは5階。散歩の途中、その前を通り過ぎることで存在を知ったあの鮮やかな部屋と――その主に会いに]
531号室
[部屋番号は覚えていなかった。
ひとつずつ名札を見て、確認していく。あの時、看護師が名前を呼んで扉を開けて……通り過ぎるはずだったのに、思わず足を留めたのだった。
その時言葉は交わしたか。
ともかく、少女はカシワギさん…柏木が画家であることは知っていた。見方を変えればそれしか知らなかったが、病院に長くいる者を深く詮索する気はない。少しばかりの興味はあっても、風に吹かれてとぶような、小ささであり]
柏木さん…いますか
[コン、とひとつ扉を叩く。
瞳が見えないからだろうか、好奇心とは裏腹に、彼と話すことは少し、苦手だった]
こんにちは…
[常ならず、小さな声で挨拶を返し一歩中に入れば、開いた扉から手を離す。ぺたん、とまぬけな音を立てて自動で閉まった]
あの
[顔をあげ、部屋を見渡す。少女の着たパジャマよりずっと暗い、けれど緑のカーテンに、自身の個室にかかった薄緑のそれを思い出し、少し勇気付けられる]
どうしようかな、って思って
ふと顔が浮かんだから
[要領を得ない言葉を洩らしつつ、ポケットからハンカチ包みを取りだす。掌の上でひろげれば、それは腕時計の残骸で、カーテンが開いたままならば、陽光を反射し、柏木の顔を照らすだろうか]
[手先の器用そうな、大人の…男の人。
結城に見せるのは何故か憚られた。命ないものを"なおす"ことまで、彼に頼んでいいものか、と。だから今少女は此処で、表情を読み取ろうと柏木の顔をじ、と見ていた]
はい、落ちてたんです
落とした、のかな
[一瞬、瞳が見えたような気がした。
よく見ようと、そして伸ばされた手に誘われるように、時計を持ったまま、少女のものではないと推測できるような言葉を零し――実際、近くで見ればそれが少女の細い手首に似合わないとはすぐに知れようが――二歩三歩と柏木に近づいて]
"なおす"こと、できますか?
じゃあ…
[ハンカチごと渡そうと、さらに手を差し出した。左腕から伸びた点滴の管が引っ張られて音を立てる]
これ、このままでも綺麗だけど
……痛そうで
見て、られないんです
[患者として病院にいる者は、皆何処か壊れている。人間には完全な形などないだろうが、時計にはそれがあるのだから、元に戻したかった。戻って――欲しかった]
痛い、のは私なんですけどね
……誰かにとってはただのゴミなんでしょうけど
[そうかもしれない。違うかもしれない。全部、想像――否、妄想でしかない]
はい、お願いします
検査が早く終わったら、また夕方にでも
[時計を渡し、手を戻す。手持ち無沙汰に腹の前で組み、再び部屋を見渡し、その中の一枚に目を留めた。少し、首を傾げ]
虹………見ました?
私も見てないんです
……見たこと、ないかもしれない
[同じく窓の外を見やり、右手で目元を擦った]
……すいません、じゃなくて。えと
よろしくお願いします
[右手は握りしめられ、点滴装置を左手で持ったまま、小さく頭を下げた]
じゃあ…また
[顔をあげ僅かに微笑むと、部屋を辞そうと背を向けた]
[入った時と同じく、背中で扉が閉まるのを聞く]
それならやっぱり
見たかったなあ……
[不安は不安で押し流せるのか。それとも増幅させるだけなのか。試してみたかったと、歩き出したその表情は、俯きがちで少女自身にもわからない**]
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