[ボールを投げる、特に真っ直ぐ投げることは
案外難しいんだ。
ずって突き刺すように、
相手のミットをぶち抜くように投げなきゃいけなくて
ソフトボールで使う球って案外大きくて、
つまりわたしは、
それを投げるためにずっと練習してきてる。
つまりわたしは、
大きな球を投げるのに慣れていて
吹けば飛んじゃう小さなゴミみたいなものを
狙い通りに投げられるわけじゃないってこと。]
[勢いと力だけが空回りした結果の白封筒は
案外簡単に掌から飛び出して
間抜けなカサカサ音を立てて床に転がった、ん、だろう。
本当にそうなのか、わたしは知らない。
あの子の顔に向かってぶん投げたけど、
振りぬいた瞬間、背を向けて、
自分の鞄の場所まで戻り
一切合財詰め込んで図書室を出たからだ。
せめて顔に当てられたかどうか見ればよかった
――――だなんて、帰り道でも思う余裕はない。
だって、あの手紙を置いてきてしまったんだ。]
[せっかく回収した手紙。
見られるわけにはいかないって
嫌な噂がたつのも我慢して取り返したのに
取り返したのに、この結果ってなに?
なんだか無性に、むしゃくしゃして
喉の奥でぐしゃぐしゃして
アレが読まれてしまうのかと思うと吐き気がした。
じぐじぐになった目頭に夕焼けが痛い。
あんなもの書かなきゃよかった。
あんなもの、書かなきゃよかったんだ。]
いつも手紙、読んでくれてありがとう。
こういう話できる友達いないから、
話が出来て嬉しいって本当に思ってます。
この間手紙で教えてもらった通り、
ためしに一枚、書いてみました。
直接渡すわけじゃないって分かっててもすごい緊張するね。
あと恥ずかしい。
多分、返事の手紙が貰えるまで
私は死刑前日のような気持でいるとおもう。
読んでみて、直したらいいところ教えてね
『アンへ
いきなりこんな手紙を渡されても
気持ち悪いし戸惑うと思うんだけど、
私はあなたが好きです。
吹奏楽部で練習してるところ、
部活中にグラウンドから見惚れていました。
細い指が自在に音を生み出すのも
アンの横顔が夕焼けのオレンジ色になっているのも
すごく素敵で、ドキドキしました。
ここから何を書いたらいいか解らない ! 』
[ぐちゃぐちゃに丸くなった
『吹けば飛んじゃう小さなゴミ』は
確かにわたしの手の中から飛んで行ってしまった。
だけど、無くなったけど、
苦しい気持ちの滲みだすようなぐしゃぐしゃの封筒は
私の手の中から消えたけど、でも、
突き刺す夕日がすごく痛くて
どうにも耐えられそうになくて、
わたしは、できるだけ顔を上げないようにして
帰り道を進んでいった**]