―自宅―
うぇー腹減った。
[昨日こっぴどく怒られたのは、なんだったのか
それくらいのケロッとした顏で目を覚ます]
あっれぇ
かーちゃんいねーのか
[広くない団地の一室だから、
見て回るのにさして時間は要らない。
台所と寝室、風呂と洗面所、それに手洗い。
探す温もりはそこにはなくて]
まだ帰ってねーとか?
[首を捻る。店の客がどんなに管を巻いても、
朝には必ず帰ってきていたのに]
『―ヴヴヴヴ、ヴヴヴヴ、ヴヴヴヴ―』
[食卓の上で携帯が振動する音。
携帯は母親の物で、アラームが鳴っていただけだった]
かーちゃん、一回帰ってきたんだ。
[店がらみの電話がかかってくるから、
携帯はいつも肌身離さずだったはず]
かーちゃん…?
[ふと気付く孤独。寂しさ。
ベランダから外に出れば雪が降っていた]
雪だ!!
さみーっ!!
[一瞬ぱあっと嬉しそうに目を輝かせるが
ブルブルと身を震わせて急いで部屋に*引っ込んだ*]
−回想−
[待てども母親は帰らず、テレビ番組も始まらない。
襲う不安に耐えかねて外に飛び出した。
住宅街でも人に会わず、店にも人の気配はない。
母親の勤め先のある繁華街もただ雪が降るばかり]
オレ、異次元にでも来ちまったのか?
[ゲームでは主人公が異次元に飛ばされる話はあるが、
まさか自分に起こるなんて考えられなかった]
[再び不安に襲われ、秘密基地へ向かって駆け出す。
きっとそこなら、仲間がいる筈だから]
ケータ!ユースケ!!…アキヒト!!!!
[入り口のトタン板を勢いよく跳ね上げて駆け込む。
いつもは誰かがそこにいた。 …けれど]
いねー…
[だれも、いなかった。基地の中はいつもどおりなのに。
人だけが、仲間だけがそこにいなかった]
なんだ、誰も来てねーんだ。
[椅子に座り込む。
サッカーボールを抱えてしばらく呆けたようにそのまま。
しかし、何かの気配がして外へ出た。
そこにいたのは髪の長い、学生服を着た女の人]
え? …ねーちゃん、何言ってんだよ。
人が消えるわけねーじゃん!
かーちゃんも、みんなも、消えるわけねーじゃん!!
[アンと名乗った学生から聞いた言葉は信じることができず、
バッカじゃないのかと本気で思って言い返す。
しかし、他に説明できずに返す言葉はそれから続かず]
きえるわけねーじゃん。いなくなるわけ、ねーじゃん!
[同じ言葉を繰り返して、アンら逃げるように走り出した。
道の向こうに、何かが見えたような気がして立ち止まる]
きの、せいか。オレどーかしてんだ、きっと。
[ため息をついて再び歩き出す。
とぼとぼと、網に入れたサッカーボールを蹴りながら。
当てもなく…それでも誰かに会えるといいと思いながら]
…はあ。
[コンビニの前。明かりのあたるガードレールに座って。
どのくらい歩いただろう。疲れきっていた]
−回想・終−
−コンビニ−
腹、減った…
[家で待っている間にありものを口にしてはいたが、
さすがに外を歩き回っていればおなかも減って。
物欲しげな顔で誰もいないコンビニの中を見る]
だれもいねーし…いいよな、ちょっとくらい
[忍び込むような姿勢で入り口の自動ドアをくぐり、
おにぎりなどを見るが期限切れのようで。
ううむ、と唸ってお菓子コーナーへ回り込んだ]
あ、ゴーライジャーチップス!
[目を輝かせてそれを2つばかり手にして。
ついでにスポーツドリンクもひとつ失敬して店を出ようと。
[雪の降る外に戻るのは嫌でカウンターに座ってスナックを開けた]
また怪人だー
[チップスについているキャラクターカードを開けて
がっかりした様子で唸ったとき、見たことのある人が]
あ…っと、えと。
アルバイトなんて、そんなんじゃねーよ
[きまずそうに言って。
それでも久しぶりに見た動く人にほっとしたのか
カウンターから降りて近寄って]
おっちゃん、消えてなかったんだな。
[じいい、と見上げてそれだけぽつりと]
[くしゃくしゃと撫でられればこそばゆそうにしながら
どこかうれしそうに笑って]
うん。オレはへーき。
でも…おれ今日は、変な人しかみてねーや。
アンとか言ってたけど。
みんないなくなるって、言ってた。
アイツが言ってたこと、ほんとなのかな。
だから、みんないなくなっちまったのかな。
[何か街に起きていたのなら、
母親が自分を放っておくわけはない筈。
だから可能性があるとすれば…
消えてしまった、としか思えなかった]
[こっそりと3袋目のゴーライジャーカードを見て]
…ち。
[ううと唸った。
出てきたのはまた悪の軍団の雑魚カード。
もはや興味は菓子ではなく*カードに*]
[俺のトコ来るか?と言われて頷きかけて戸惑う。
そのまま男性の足元を見て考えた後]
ううん、オレは…へーき。
だって。
[かーちゃんが、かえってくるかもしれねーから。
それは言葉にはならなかった]
お、おおお、おっさん、大丈夫か?
[携帯を見たかと思うとよろけて座り込む様子に
思いっきりおろおろする。飲み物と頼まれて]
わ、わかった!
[店の中の飲み物の棚へ走った]
な、何がいいんだ、こういう時って。
[ついつい手に取るのは自分の好きな炭酸飲料で。
コーラとグレープフルーツソーダを手にとって振り返ったとき]
あ、ダンゴ!
[イマリが店に入ってくるのを見て声を上げた。
二人目の、動く人。しゃべる、人]
おっさんが急に座り込んじまったんだ。
[手の中を見て。さすがにコーラはないだろうと戻して
スポーツドリンクに持ち替えた。
どっちがいい、と二人のところに戻ろうとして外を見て]
雪が、空に上ってくぞ…
[ありあえない光景に目を*ぱちくりとさせた*]
―コンビニ―
おっさん…。
飲み物、これでいいか?
[手にしたスポーツドリンクとグレープフルーツソーダを
見せながら声をかけて]
[気味も居たねとイマリに言う言葉を聞いて
やっぱり誰もいねーのかと外をまた見た]
雪、上にのぼってくって、なんでだ。
[ズイハラが手に取らなかった方の飲み物を持ったまま
コンビニの外に出て空を見上げた]
へんなのー!
どーなってんだ、よー!!
[不意の大声。しかしそれは雪に吸い込まれた]
[空へ上る雪を塞ぐように手をかざす。
掌に触れる雪は冷たくて]
…つめ、てー。
やっぱ雪だよな、これ。
[そう言ってダウンジャケットの前を閉じようとする。
しかし去年着ていたサイズのそれはすでに小さくて
半分までしかジッパーが上がらなかった]
さーみー。
[ふるっと身を震わせたところでイマリの声が届いて]
あーもどるー。
[肩をすくめて店の中へ]
え?
[側に来いというイマリに一瞬身構えて
でもそのにこにこ顔に負けて横に体育座り]
聞きたいことって、なんだよ?
[恥ずかしいのかぶすっとした表情でイマリへ]