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[そうして、何事もないように、彼は手を差し出した**]
おいでアイノ。
壊れた君の"現実"を、新しいもので埋め尽くしてしまおう。
君も、僕も、人間も、人狼も、
お伽噺はもう全部、死んで、消えてなくなるんだんだからね。
[ニルスは、人狼としての姿ではなく、人間の老人の姿で死したヴァルテリの死体を見下ろしていた。
その姿は死体を観察する風でもあり、死者を悼むようでもあり、はたから見れば本心を測ることは出来ないものだろう。
事実、ニルスの心中に去来するものは何とも言えない複雑な形をしていた。]
……人狼といえども血は紅く、死する時は人の姿か。
何とも皮肉なものだ。
[胸の内にある複雑なものを押し隠すかのように、ニルスは眼鏡のブリッジを押し上げる。
次いで、ユノラフの亡骸の傍に膝をつき、血溜まりの中から首飾りを手に取る。]
……すまなかった。
[護れなかったものは、途方もなく多い。
声に混じる悲痛な色もそのままに、クレストが去った後もニルスはその場から動くことはなかった。]
[それから、屋敷の扉が開放されるまで、さほどの時間は用しなかった。
屋敷の中の様子は、長老の使いの者に外側から見張られていたのだ。
打ち付けられた扉が数人がかりで壊され、屋敷の中に久々に明るい日の光が差し込む。
それは、収穫祭の日のこと。
開かれた扉からまず屋敷の中へと入り込んだのは、夜から始まる収穫祭の最後の準備を行っている、村の賑わいだった。]
[物音に、ニルスはゆっくりと顔を上げる。
手にはユノラフの首飾りを握ったまま。
屋敷の中へと足を踏み入れ、居間の惨状に眉を顰める村の青年たちに視線を向け、ニルスは血に汚れた手や服を隠そうともせずゆっくりと立ち上がる。
口許には、形だけの笑みを浮かべて。]
長老殿に、汚れ仕事は終わった、と伝えたまえ。
ああ、それと……自分の星詠みが如何に素晴らしいものであったか、御自身の目で確かめては如何です?とも、ね。
[精一杯の嫌味を含めて、ニルスは青年たちを笑っていない目で見据える。
怯む彼らに対して、ニルスは小さく溜息をついた。]
― 居間 ―
[手当てしようにも。
もう、包帯も薬もないことを悟った]
クレスト……
[目を閉じたクレストの前に、佇む]
[触れようとした手は、透ける。
見えていない、聞こえていない]
[ はい、かいいえ、か。首を振るだけで済む。
そこから始まった、受け応え。
梟の木細工を貰った。
勉強した字で、御礼の手紙を書いて送った。
ニルスには、これでいいかとそわそわしながら手紙を添削してもらった。
二人で初めていったお祭り。
まだ早いと周囲には言われながら、ユノラフに進められるがままに酒を知った。
魚を持っていくのが楽しみになった。友が手に豆をつくって育てた野菜を受け取るのが楽しかった。ちゃんと出来たと自慢げに目を輝かせる友の顔を見るのが好きだった]
[生まれるがまま朽ち果てると思った、田舎の村暮らし。
一人遅く、取り残されてゆく。抱いていた覚悟。
それが変化したのは。
当たり前だと思っていたことに、いちいち新鮮に、驚いたり、笑ったりする、彼がいたからだ]
クレスト。
お前が、この村に、来なければ…
おれは、つまらないまま、くたばってた。
お前は、生き続けて、くれ
おれの人生の中で、かけがえのない
大事な、友だから!
こんなことで、失われ、ないでくれ…!
[イェンニから、こういう時、どう祈ればいいか聞いておけばよかったという後悔。
ただ、動かぬ彼の前で、両手を合わせて、こっちに来るな、と、何度も何度も口の中で繰り返した**]
……。
でも、貴方が騙したわけじゃない。
わたしが、思い込んだだけ。
[手は未だ動かない。
頭を上げた。目は虚ろで、それでも笑う顔を確かに捉えた]
それに、このまま、独りは嫌だから……
…… 今度は、信じてもいい?
[一言一言、確かめるように口にした。少しだけ、震えていた]
[ここはどこだろう]
[生きているのか、死んでいるのか]
[酷く足元が不安定で、ふわふわと頼りない]
[何も見えない]
………?
[声が、聞こえた]
マティ?
[喉を通さずに発せられたのは、とうの昔に失ったはずの、自分の声]
そこに、いるんですか?
[しかし、返ってきたのは肯定ではなく]
“生き続けてくれ”
[そう強く願う、亡き親友の声だった]
“大事な、友だから”
“こんなことで失われないでくれ”
[以前の彼であったら、嫌だと駄々をこねていただろう。傍に行くと]
[だが、今は――穏やかに微笑み、言った]
マティに出会えていなければ、僕は、死に急ぐことばかりを考えていたでしょう。
病を患ったあの日から、僕の人生に色はなく、灰色に淀んでいました。
だけど、マティのおかげで、毎日が新しい事ばかりで、とても充実していて――
少しづつ、少しづつ、色が戻ってきたのです。
マティと友達になれて、良かった。
ありがとう。
僕は、生きます。
君の分まで。
――――。
[居間で眠る彼の頬に、涙が音も無く伝って落ちた]
[青年たちが屋敷の中を検分する間に血に汚れた身を清め、ニルスは屋敷の外へと踏み出す。
そこにいたのはたかだか数日のことだ。
しかし、随分と長い時間のように感じられた。靴底で踏む地面がやけに柔らかいような心地がする。
屋敷で眠る幾つもの死体や、恐らくはどれだけ磨いても取れないであろう血の跡をどうするのかは、ニルスの知るところではない。
ただ、手にしていた首飾りだけは自らの荷物であると嘘をつき、そのまま屋敷の外へと持ち出した。
ニルスは、首飾りの玉を通して青年たちを見る。当然、くすんだ玉は何を映し出すこともない。
少し向こうの通りに、色とりどりに飾られた町並みが見えている。それは、非日常から日常へと自分が帰ってきたことへの証だった。
しかし、非日常を経た自分は、日常にいた自分とは異なる。目には見えずとも、随分と背負うものが多くなってしまった。
自分にやや遅れて、屋敷から連れ出されるクレストに苦笑のようなものを浮かべ、ニルスは歩き出す。
向かう先は、数日ぶりに帰る自らの住処だった。]
[それからニルスは祭りに出ることも無く、白紙の冊子とペンを手に机へと向かった
合間に簡単な食事を摂り、時折眠る以外は他のことに手をつけず、ただ一心不乱にペンを動かし続けていた。
その傍らにあったのは……表紙の次から数頁が無理矢理破かれたように欠落し、古ぼけて紙が黄ばんでしまっている、一冊の書物だった。]
[それは、ニルスの生家に百年ほど前から遺されていたものだ。
ニルスの曽祖父が人狼騒動に関わった際に遺されたものだと、ニルスは祖父から聞かされていた。
書かれているのは、百年前の人狼騒動の一部始終である。しかし、その結末は今回と異なる。
人狼は生き延びたのだ。
ただ、村を犠牲にするより早く、この村を出たというだけで。
書物から破かれ抜け落ちているのは、長老の星詠みによって人狼に目覚める可能性がある者が集められたくだり。
何故、書物の最初だけが破かれていたのか。
何故、人狼騒動に関わった曽祖父が、大事な資料になるであろう書物を家から出さないように遺していたのか。ニルスが考え得る理由は、一つだけだ。
―――― つまり、生き残った人狼は、 ]
[そうして数日を費やし、ニルスは一冊の資料を書き上げる。今回の人狼騒動を顛末を記したものだ。
書き上がったばかりの資料を机の上に残し、ニルスは村から忽然と姿を消した。
それは冬が来る、少し前のこと。**]
[アイノの声を聞く間、彼は何も言わなかった。
夢なんて、初めからどこにも、
その言葉に、声はなく、笑って]
そうだね、今更だ。
誰を殺しても、……君が殺され、僕が死んで、他にも沢山が命を摘み取られても、
現実は夢にならないね。
――僕のせいにしちゃえばいいのに。
[思い込んだだけという言葉に、面白そうに、そう呟き返して]
君はまだ信じたいの。
僕は嘘つきだよ。
だから、信じて良いかっていうのには、答えられないな。
――代わりにこういってあげるよ。
[差し伸べた手はそのままに、言葉を続ける]
僕は、君をまた騙すけど。
信じるのも、信じないのも、君が決めればいい。
この手を取ったら、そうだなぁ。
一つ下の階に、君と一緒には行ってあげる。
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