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[女の力は、踏み込んで耐えようと思えばいくらでも耐えられた。
それでも、ふらりと傾いだのは、ひとえに抵抗する気の無さ故に。
かつてこれほどまでに殺されることに従順な男がいただろうか。]
優しく、してよ。
[ここがビトウィーン・ザ・シーツなら、きっと言うべき立場は間逆であるはずの言葉。]
めちゃくちゃに、されてもいんだけどね。
[女の体重。その重さが官能的だ。
また、自然詰めていた息を深く吐いた。]
そうするのは、どっちかってと、ボクの趣味、だから。
いいんだ。
[泣きやしない。はずだ。
受け入れるように、目を伏せる。]
[女の言うとおりに、目を閉じたままでいる。
あ、そうだ、と、何かを言いかけて、唇が開いたのに。
その先は紡がれることがない。]
がッ――……、
[細いヒールを突き立てられて、具合良く開いた口からは、低い呻きが漏れた。
呼吸が妨げられるような衝撃。意識が瞬間飛びかける。]
[この男、稀代の変わり者ではあるが、喧嘩はそうそう強くない。
人の神経を逆撫でするのは大好きで、何を言ってもただけらけら中身の無い笑い顔を向けるだけだったから、そりゃあもうよく殴られた。
殴られたのに、強くはならない。
一方的に殴られているだけなのだから、当然だ。
死ぬのなんて、そんな痛みたちの集合体だと思っていた。
この世界ではあっけなく人は死ぬ。
だから自分もあっけなく死ぬんだと思っていた。]
[ぞぶり、ぞぶり、ヒールはおかしな位置から体内を壊していく。
痛いのか痛くないのか、熱いのか冷たいのか、どれもこれもがその一転に襲ってきているような気がする。
頭が痛い。痛い? これは痛いのか?
めちゃくちゃにされているのはそこじゃないはずなのに、脳の芯からぐちゃぐちゃだ。]
い、ぁが、
[伝えたい言葉は出てこない。ウルフもこうだったのか、と遠く過ぎる。]
――――ッ!!
[なのに思考は。
踏み下ろされた足の狙いにかき消される。
もう、痛いではなくて。
脳天を突き抜ける白いフラッシュだった。]
[ゆるく首を振った。
喉は絞まって、うまく呼吸すらさせてくれない。
喘ぐように口を何度も閉じ開きして、自意志の及ぶ範囲が狭くなっていく。
そんな中で、左右に振られた首は、今までしに従順だった男の見せた、初めての、ささやかすぎる抵抗だった。
もう、声を出せるほどの力はない。
けれど死ぬこともまだ許されていない。
ヒールが身体を貫く度にびくりと大きく痙攣するだけだ。
それを痛みとして認識できているのか、もう定かではなかった。]
[頬に触れる手。
その手に、揺らいでいた首も、止められてしまう。
ほんの僅かな生の抵抗も、もう。
うっすらと、閉じたままだった目が開く。
最期に女の顔を一目見たかったからなのか、それとももう筋肉の力が抜けているからなのか。
己にすら、知るすべはない。]
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