[1] [2] [3] [4] [5] [6] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
―― 町の広場 ――
さて、そのころのドロテアは街の広場にやってきていました。
宿の息子に否定されても、人狼を見たと言い張る少女は、広場にある花壇のところで少し休んでいます。
「ほんとうに、見たもの」
ぽつりと呟くドロテアは信じてくれる人が現れるまで、町の人々に声を掛けることをあきらめないようでした。
周囲に視線を向けて、目に付いた人物への側へと寄っては訴え続けるつもりのようです。
ほら、また一人――まだ声を掛けていない人物を見つけた少女はその人のところへと足を向けるでしょう。
─町の広場─
あーあ、全くもう。
こんなんじゃ、商売上がったりだねぇ。
……新しい糸を受け取りに行かなきゃならないってのに。
[ため息つく仕種にあわせ、帽子の長いリボンと大きな耳飾りがゆれる。
広場までやって来た女は、何気なく周囲を見回し]
……んん?
どうしたんだい、ドロテア?
……え? 人狼、見たって……。
あんた、なぁに、言ってんの。
[訴えかける少女に、女は僅かに眉を寄せる]
本当だ、って言われてもさぁ……ああ、確かにあんたは嘘つくようなコじゃないけど。
んー……いきなりそんな話されたって、ねぇ?
アタシも困るしさ。
とにかく、ちょっと落ち着きな……って。
[困り顔のまま、宥めるように肩を叩けば。
少女は、怒った様子で女の傍を離れて行く]
あーあ、もう……。
[他の住人に向けて訴えを繰り返す少女の様子に、零れるのはため息、一つ]
あんな調子で、イラついてる連中に当たられたりしなきゃいいんだけどねぇ……。
―― 街の広場 ――
ウルスラを見かけて訴えてみても、困ったように取り合ってくれない様子に少女は怒りました。
「私は落ち着いているわ。
見たのは間違いないもの、どうして誰も信じないのかしら」
困惑する女を置いて少女はぷりぷりと怒ったまま広場の反対側、雑貨屋があるほうへと足を進めます。
そうして日暮れまで、誰彼となく声を掛け続けるでしょう。
一度は声を掛けた人に話しかけられれば、また訴えることもあきらめません。
それほどに、*少女は自分の見たものを信じているのでした。*
―― 宿の一階 ――
[ペッカは、暫くベルンハードと話していた。
さして長くも遠くも無いありきたりな航海の話。
それでも、そこそこ珍しげに耳を傾けてくれる
宿の息子たる幼馴染みの日常を思い、ふと挟む。]
ビー。
お前ェ、このまま親父さんと宿屋やンのか。
[呼ぶのは、幼い頃のままの愛称。]
なんか他にやりたいことでもありゃよ、…
…こン災いで往来もしばらく途切れっだろうし。
ちっと他の商売も考えてみりゃいンじゃね?
…なン、思っただけだァね。
[答を待たず窓外へ目を遣るのは、急かさぬしるし。
濡れた口の周りを舐めながら、広場へ興味を移す。
道行く人びとへ何やら真剣に訴えるらしき
ドロテアの様子を見、ペッカは頬杖をつく。]
おーぉ、誰彼なく捕まえてンなァ。
ウルスラ姐も絡まれてんじゃねーか。
─町の広場 → 宿─
[雑貨屋の方へと向かう少女を見送った後、もう一度、やれやれ、と呟いて。
ゆっくりと、足を向けるのは宿屋の方]
……おんや?
親父さんは、お出かけかい?
[扉を開け、中を見回して。
最初に投げたのは、そんな問い]
親父さンなら、奥に引っ込ンじまったぜ。
[来訪者の声を受け、カウンターの端から応じる。
無造作に腕を上げると、乾きかけの泥が落ちて]
若ェのとは、話が合わねンだとさ。
[斜に腰掛けた侭、ペッカは柄悪くひひとわらう。
ウルスラの用件は、ベルンハードが尋ねると憶え]
ウルスラ姐も、辛気臭せェ面しに来たクチかぃ?
おや、そうかい。
ま、アタシも急ぐ用件じゃないけどねぇ。
[奥に引っ込んだ、との言葉にちら、とそちらへ視線を流す]
ま、あんたらがいつもの調子で駄弁ってたんなら、話は合わないだろうけどさ。
[笑うペッカに冗談めかした言葉を返し。
空いている椅子一つ、かたりと引いて腰を下ろす]
辛気臭くしたくはないんだけどさぁ。
仕事に気が乗ってた矢先にこんな状況じゃ、さすがにアタシも憂鬱になるさ。
ンなら、座ってきなぃ。
…俺ラん店じゃねえけどよ?
[カウンターの内側から振り向いて奥へ声をかける
ベルンハードに代わってうながし、軽口を叩く。]
おう、つきっきりで説教も互いに飽きたってナ。
あンだけの嵐で、人死にが出なンだこったし
村ン衆も、もちっと喜んでもいい気はすらぁ。
[ウルスラの憂鬱の種を耳にしてふうんと唸り――
ペッカは、ごとと身動いで椅子の向きを変える。]
気の乗る仕事? そういやうちの姉ちゃんが、
ウルスラ姐がうらやましいとか言ってたっけか。
確かに、あんたらの店じゃあないね。
でも、お言葉には甘えさせてもらうよ。
[くすくすと、笑う仕種にあわせて耳飾りの輪がゆれる。
奥に呼びかけるベルンハードには、急かさなくてもいいさ、と声をかけ]
……飽きるほど説教されてるのも、どうなんだかね。
[さらり、こんな事を言ってから、軽く肩を竦める]
外と繋がり断たれちまったら、仕事に差し障るって連中も少なくないからね。
人死にないのはめでたいけど、生活かかってるんじゃ、ぴりぴりもするさ。
アタシも、そのおかげで仕事が止まっちまったんだしね……良い図案ができてるのに、ちょうどいい色の糸が手に入らないんだから。
ってー、うらやましい? あんたんとこの姉さんが?
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ