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[伸ばした指先が、ユウキの頬を撫でた]
それは、どうでしょう。
[指先を見つめ、そこに残る感覚に顔を歪める]
“あなた”はそんなに――。
[優しく笑う人でしたか?と、掠れた声は雨音に負けるほど*微かだった*]
忘れることは、
残酷だけれど優しいからなぁ。
[眼を細める。
歪む顔に対して、淡い笑みをつくった。
細い雨にも流されてしまいそうなほどに薄い、刹那の表情。
動いた唇が紡いだのは、「お休み」の一言だけ。
そっと離れて、スイを部屋に寝かせに向かう。
しっかりと毛布をかけ、また、頭を撫でてから、*出て行った*]
― 夢 ―
[霜の声を聞くころになると、”ちか”はひたすら小さく小さく縮こまった。小さくなっていれば”さむさ”から見つからない、そう思って。薄い布団を頭から被り、ただただ、寒さと、暗闇と、孤独に耐えた]
「ちか、ほら、持ってきてやったよ」
「わあ、ゆうちゃん、いつもありがとう。庄屋さまはほんとうにおやさしいの。ありがとう」
[春、夏。”ちか”は野で食を得る。秋は山で。そして落穂を拾い、じっと冬を遣り過ごす。しかし、腹を満たすには、足りない]
「・・・まだ死なれるわけにはいかないもの・・・」
[”ゆう”は、聞こえないように口の中だけでそう呟く。”ちか”を感情の篭らぬ瞳で見据え、幾許かの食料を置くと、すぐに粗末な庵を後にした]
― 夢・*了* ―
[アンの部屋に顔を出して、寝てるかどうか確かめる。
眠るアンによぼよぼと近寄って、和む]
……。
[声もなく笑み、アンの頬をむにっとつまむ]
一緒にいたいね。ずっと。
[ちょっと嬉しそうに、いまさら答える]
じーちゃんは弱音吐かない子が一番心配ですよ。
[まったくもう。とか、冗談ぽく言ってみせる。
やがて出て行き、自分の部屋へ戻る。*]
-居間・ギン-
[何処からともなくモミの木を引きずって来た。
こたつの横にでんと置くと再び消える。
次に現れた時にはモールや星などのオーナメントの詰め合わせ、
最後にはリボンのかかった大小の箱を引きずって来た]
にゃぁぁぁん?
[居間には誰もを居なかったので、得意げに胸を張ることはせず、
何食わぬ顔をして日のあたる場所で毛づくろいを始めた*]
― 夢 ―
[”ちか”は”ゆう”が手にしているものを見て、興味津々の態で尋ねた]
「ゆうちゃん、それはなぁに?」
「これは庭訓往来よ。ちかには必要ないものよ」
「えっ?て、てい・・・?」
[わけのわからないという表情の”ちか”に、”ゆう”は薄く意地の悪い笑みを口の端に貼り付けて言った。『よ』の文字を指差しながら]
「少しだけ教えてあげるわ。これは『ま』と読むのよ」
「わぁ、ゆうちゃんすごい。もじが読めるのね」
[”ちか”は”ゆう”がくすくすと笑っているのにも気づかないまま、教えられたとおりに地面を指でなぞって文字を書き、読みを復唱する]
[気がつくと、横になっていた。緩く首を巡らす]
「わたしのへや」だ・・・。
誰か運んでくれたのかな?
わたし、みんなにめいわくかけてばかりだ・・・。
[自分の部屋なのに、なぜだろう?この部屋で落ち着いた気分になったことがないような気がした]
ここはわたしひとりには広すぎるよ。
居間に行こう。
みんな、きっといる・・・。
[ふと触れると、目の端がカサカサしてた。
きっと、寝ている間に流れた涙が、乾いたからなのだろう]
[ゴシゴシと服の袖で目の辺りを拭ってから、居間へと降りていった。戸を開けると、いきなり飛び込んできたのは大きな木]
お部屋の中に、木が生えてる・・・。
どうして?
・・・あ・・・。
[しばし呆然と見ていたが、居間に誰もいないことに気づいて途端に不安になった。
恐る恐る名前を順に呼んでいって、人の姿を探す]
ギンちゃん・・・。
[やっとギンの姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄り、そっと抱き上げてその温もりを*受け取っている*]
こんなに小さかったのにねぇ。
[押し入れから取り出したアルバムをめくり、目を細めている]
あなた?
[ふと、『人の顔はそんなにじろじろ見るものじゃない』と言う声が聞こえた気がして振り返った。
誰もいない室内を不思議に思い、居間へと向かう]
あら、もうそんな季節だったのねぇ。
ちかちゃんはクリスマスは何が欲しい?
ごちそうも作らなきゃいけないわよねぇ。
[居間に現れたツリーににこにこしながら、本棚から料理の本を*取り出した*]
-自室・スイ-
あれ──……?
[天井を見上げて何度か瞬きをした。昨夜の記憶はツキハナの腕の中で途切れている]
寝ちゃったのかな。
[やわらかくていい匂いのするツキハナを思い出し、うーと呻きながら、両手で顔を押さえた。耳まで赤い。
ひとしきり照れて起き上がり、覚えのある煙草の残り香に気が付いた]
運んでくれたの……とーさん……かな。
[口の中でありがとうと呟いた後に、首を横に振った]
あとで、ちゃんと言おう。みんなに。
[瞳に今までの迷いは無く、すっきりとした笑みを浮かべ、皺だらけになったシャツに気付いて身支度を始めた]
-居間・スイ-
おはよー。
なんでクリスマスツリー? ……ギン?
[不思議そうな顔をした後に何か思い至ったのか、ギンを見て笑う。
ツキハナに気づけば、顔を赤くしながら”昨日はありがとう”とぶっきらぼうに告げて、クリスマス料理の本に気付く]
クリスマスのご馳走いいね。おいらも手伝うよ。
ちかもいっしょに作ろうか?
おいらも作ったこと無いけど、きっと楽しいよ。
[作る方々と一緒に*台所に向かった*]
[真っ暗の世界で
ただただ丸まっている夢をみていた。
誰かにほっぺを掴まれた気がして、
眠りが浅くなる。]
(爺ちゃん…?)
[大好きなひなたの匂い。]
「弱音吐かない子が一番心配ですよ」
[心配?私の心配をしてくれるの?嬉しい…
…でも、アンは…アンは弱音ばかり吐いてる子だったよ。
自分の病気を盾にして、いっぱい我が儘言ってた。
どうせすぐ死ぬんだから、私のお願いを優先してって、
無理難題を押しつけてた。
…でも、先に逝ったのは彼女だったの…。]
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。
[自室で横になったまま、両手で顔を覆ったまま
ただただ謝り続ける。手の隙間から涙がこぼれる。]
(幸せになってほしい。
どうしたらこの祈りが届くだろう?
破り捨てた手紙は、もう渡すことはかなわない…。
だから、せめて今大好きな人たちには…。)
[ゆらりと立ち上がり、洗面所で顔を洗った。
お茶の間を覗くと、立派なもみの木が鎮座していて
思わず目を見張った。]
[ギンを抱いて陽だまりの中で目を瞑っていたら、ツキハナに声を掛けられびくりとした。
その拍子にギンは腕の中からするりと抜け出ていってしまった]
えっと、くりす・・・?
[意味が分からなかった。
しかしご馳走と聞くと、お祭りか何かだと理解]
ほしいもの・・・ごちそう・・・。
えっと、くさだんご!
[ちかは、思いつく限りのご馳走の名前を口にした]
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