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― 石段 ―
[境内の階段をあがるのは履き古したズック靴]
暑いな。
[石段を下る人に僅かに微笑んですれ違う。
顔を上げると、青い空。
荷物――自分で作った酒だ――を持たない方の手で作務衣の襟元を摘まんで風を作りながら、笑みを深める]
暑い、なあ。
[首の汗を、拭った**]
遅くなりました。
……はは、まあ、すまん。
[夏祭りの準備が進むテントにたどり着くと、先に来ていた馴染みの若い医師に、開口一番文句を言われる。
どうせまた子供たちに捕まっていたんだろうと言われれば、返す言葉もない]
みんな心配してた。
雨降ったら祭り中止になるのかって。
保つといいんだけど、天気。
[子供たちに増やされた荷物を長机の上に置きながら、今朝とは大分変わった空を見上げた]
[かしゃり。かしゃり。
祭りの喧噪の片隅にて、並ぶ屋台、行き交う人々、青く抜けた空、そんな様々の様子を、レンズに収めてゆく姿があった。
学生服の青年は、額に滲む汗を拭って]
……暑い、
[そう呟いては、首から提げたカメラを手放し。ゆっくりとした歩みで、他の場所へと歩き始めた]
あっつい……
だえーわぁ……
[独り言に混じるのは、独特の訛りの響き。
眼差しは自然、飲み物のあてなど探しつつ**]
ああそれか。
子供たちがくれたんだけど。
なんの絵だろうね。
花、かな。
[クレヨンで描かれたそれ、上下をひっくり返してみても違和感がない]
あ、そっちはかち割り。
八朔特別オリジナルブレンドだって。
やろうか。
[小さなビニールに詰まった水は、最終的に絵の具の水入れに残ったような色]
[真新しい青のミュールが石段を叩く。
ミュールの先に付いたリボンの下は素足で、靴擦れにより少し赤くなっていた]
……暑くても靴下履いてくるんだった。
[痛くなってきた足に眉を下げながらモミジは言う。
普段室内で仕事をしているのもあって、大体が裸足。
お祭の様子を見に行くだけだし、と横着した結果がこれだった]
うぅ……ここまで来て戻るのもなぁ…。
上についたらどこか場所借りて休もう…。
[座る場所を求めて、モミジは石段を上り行く*]
はぁ? このアタシがこれから歌おうっていうのよ?
雨なんて降らせるわけないじゃない。
[暑い、と言いながら団扇で扇ぐ。
簡易テントで出来た、粗末な控室。
夏祭りのイベントに呼ばれた彼女を知る物は殆どいない。
つまりドサ回りの売れない歌姫、という訳だ。]
[何処からか。
誰かが呟いた不安は出番を待つ彼女の耳にも届いたので。
一蹴してみせたのだが、それは周りにとっては傲慢に見えたか。]
ねえ、屋台行って来て良いでしょ?
どうせ出番までまだ時間あるんだし?
[ステージ衣装には着替えているが、足許はつっかけである。
出歩くにはもってこいというものだろう。]
んじゃ、何かあったら携帯に連絡して?
[カラン――。
木製の踵は石畳に弾けて小気味よい音を鳴らす。
後ろでマネージャーらしき者が何か言ってはいるけれど。
場末の歌姫は我関せず。]
まあ、確かにこれは。
[ブレンド、と言われて珈琲に直結しそうな色合いのかち割りを目の高さでぶらぶらさせながら、くすりと笑う。
馴染みの医者は、まっとうに飲めるものを買いに行った。引き止める理由は全くない。むしろ]
うん。もう一本、俺のも。
あと酒まんじゅう、あったら。
[当然、頼んだ]
[歌姫が名乗ると、ばつの悪そうな顔で深く頷いてからしばし見つめる]
……濃い。
[普段見慣れているはずの舞台化粧が気になるのは、曇天のせいなのかなんなのか]
[すぐ近くで、『酒まんじゅう三つ』という声がする]
えっ!?
[振り向くと、何故かケバブ屋に指三本立ててジェスチャーする医者の姿。
思わずそこらじゅう見渡して、看板を探してしまう*]
忘れちゃったの? 大西杏子よ。
同じクラスにもなった事あるんだけどなぁ。
[ドサ回りとはいえ、数年振りに生まれ故郷の夏祭りに参加となると、やはりどこか心は躍るもの。
知った顔があったのなら思わず声を掛けていたし、相手が言葉に詰まるのもさして気にも留めない。
留めないのだが――]
[ぎりり、と引く]
[引き絞る]
[放った矢が、的を射抜く]
[……ずれた]
……ち。
最後の最後が、的中せず、か。
[は、とぼやいて弓を下ろす。
礼をして、弓道場を片付けて、さて]
……ダッシュすれば、間に合うよな。
[長い袋とナップサックを肩にかけ。
小さく呟き走っていくのは神社の方へ]
ふぅ、はぁ……つい、た!
[そこまで長い石段ではないはずなのに息が切れるのは運動不足である証拠。
日常あまり身体を動かさない影響がここに出た]
の、のど……かわい、た…。
[ぐったりしながら、痛む足で人が居る方へと歩いて行く]
何か、飲み物、ある?
…あっ、炭酸ダメ。
麦茶とか、アイスコーヒーとか、アイスティーとか。
とにかく冷たいのー。
[漠然とした注文に冷酒を出されたりすると瞬時に潰れかねないのだが、そこまで考える余裕が無くなっていた]
あと、どこか、座る場所、貸して?
[そろそろ足が限界]
[家に荷物置いてくる、という意識はない。
濃紺の包みが邪魔になるのは承知しているけれど、その時間も惜しいから]
おー、賑わってんなぁ。
[並ぶ屋台に呑気な事を言いながら、駆けて行くのは冷たい飲み物の屋台]
ラムネ冷えてる? 一本ちょーだい。
[注文するのは、祭りの楽しみ。
硝子の瓶の、炭酸水]
[大西。もしかしたら、合唱コンクールでソロパートを歌っていたのが彼女だったかもしれない。
そんなことを考えているうちに、手には英世が一枚握らされていた]
あ、ああ。
酒まんじゅうね。
[もう一度辺りを見渡して――そして、医者の後ろに並ぶ]
[硝子瓶の口を塞ぐ丸い球を押し込んで、零れる前に、と味わう。
通り過ぎる冷たさも、溢れて手にかかる冷たさも、どちらも心地よい]
……あー、生き返った。
[なんて呟きと一緒に、は、と一息。
かららん、と鳴る硝子玉の音も涼し気で。
喧噪の中、一時感じる涼しさに眼鏡の奥で目を細めた]
[酒に弱いのを知ってか知らずか、麦茶の入った500mlペットボトルを渡された。
ありがたく頂き3分の1を一気飲み。
代金はしばらくお待ちください]
……………ん〜〜〜〜!!
生き返ったぁ!
ありがと、これお代ね。
[代金を支払いお釣りを貰って、ついでに座れる場所も教えてもらう]
テント?
そうね、日陰の方が良いし……。
行ってみるわ、ありがとう。
[もう一度礼を言って、モミジはテントの方へと歩いて行った。
足はやや庇い気味]
っ、はー!
[どこぞの親父の如く声をあげては、手の甲で口元を拭う。買い求めたラムネを一息にほとんど飲み干しては、背後の木に背を預けた]
あー。
やっぱり、夏はこれやよなあ。
[そんな事を呟きつつ。木陰から、寄ったばかりのラムネ屋や、行き交う人々や、光の中の祭りの光景を眺めた。
祭りは好きだ。夏も好きな方だ。それでも暑いものは暑い]
かき氷、食べたいわぁ……
あれ?アン?
って…ごめんなさい、人違いしちゃって。
もう、一緒にお祭り回ろうって約束したのに急に居なくなっちゃうなんて。
携帯あればこんな探す手間も要らないのに、なんであの子携帯もってないの…
あぁもう探し疲れちゃった…
ってゆーか、行き違いになってる可能性もあるよねー…
どっか目立ちそうな所で待ってる方が良いかなぁ。
それか誰か知り合いにでも会えれば、一緒に探してもらうのも有りかもだけどー…
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