[水を飲んで少し、うとうとしていたようです。
気がつけば、知らない場所にいました。
それでも漂う花の香りは変わらず。
月明かりも変わらず、注いでいました。
ただ、月明かりと少女を隔てるガラスが一枚]
ここは、どこかしら……?
[立ち上がり、月を透かすガラスを見上げました。
月も花も、この場所からは見えるけれど、決して手を触れることは出来ません。]
ここ……温室?
[ガラスで隔てられた世界をぼんやりと見回しました]
んだよこれ……。
[咳き込みながら、瓶の中身を地面にばら撒く。
とろりとした黄金色の流動体が、なだらかな坂を下るより早く地面に吸い込まれる]
甘ったるい。
[手から小瓶が落ちた。
男は膝を抱え込み、顔をうずめる]
あんたも飲むか?
[いつの間にか満ちていたうちの一瓶を掲げた。
左右に振ると微かな水音]
[返事を待たずに、目の前の浅黒い肌をした男に小瓶を投げやった]
なぁ、水がどこにあるか知らねぇ?
[男は手元の瓶を開け、中身を一気に*飲み干した*]
[さぁっ、と風が吹いた。女、辺りを見回す]
気のせいかしら。
呼ばれたような気がしたけれど。
[男が去ってみればいつもと同じ一人の夜の庭園]
さっきの男の方と一緒に話していた小さな娘。
あの娘はどっちに行ったのかしら。
[女は立ち上がると気の向くままに歩き始めた]
足りねぇ。
[呟いて、最後の一瓶を開けた]
[ふと、胸ポケットから実を取り出す]
はは。
[実からは、根のような物が伸びていた。
男はそれを瓶の中に押し込む]
標本みたいだな。
[ガラスの向うを、金の髪の女性が歩いて行きます]
ねえ……!
[少女の叫びはガラスを震わせただけでした。]
ねえ……!
私の声が、聞こえないの……?
[遠く、酒瓶を持って座り込む男も、異国の男も、眠る少女も。
だれも、自分に気付きません。
俯いて、土を蹴りました。]
誰も気付いてくれない……。
[風が温室のガラスを震わせました。
その音にびくりと肩を震わせて、揺れるガラスを見上げました。
空には依然、まるいお月様が輝いています。]
出口はどこかしら……。
[呟いて、温室を見回しました。
古びた温室には、見慣れない植物が、揺らめく影のようにその葉を伸ばしていました。
あまり手入れをされていないのでしょう。植物達は思いのままに枝を伸ばし、少女の道を遮っていました。
少女は不安げにもう一度、月を見上げました。
せめて誰か、一緒にいてくれたら。声を聞いてくれたら。
心細さを振り払うように、少女は動揺を口ずさみました。]
Hey diddle diddle...
The cat and the fiddle,
The cow jumped over the moon...
[細い声が、陽気な旋律を奏でます。
応えるように、ガラスが鳴り、温室に風が吹きました]