……すごいな、いつ見ても。
[足を止め、微かに響いた鈍い音の方に目を向ける。視線の遥か先には、煙を吐き出す山。思わず感嘆の言葉が口をついた。]
ええっと、さっきのバス停から南にしばらく行くんだよな。
[予約してある若者向けの宿に向かうべく、真昼の太陽のある方へ再び足を運ぶ。]
[──少しだけ感じる違和感。高校の部活の合宿の度に目に入った火の山は、日の沈む方角にあったのだ。**]
わ、涼しっ。
[チェックインを済ませて、入った部屋は、よい案配の冷風が流れていた。
背にしたリュックを下ろして備え付けの椅子に腰をかけ、さっきまで日にさらされていた身体の熱を冷ます。]
───この辺を歩くなら、夕方の方がいいよね。
[頬に感じていた火照りが治まった頃、そうぽつりと呟くと、
下ろしたリュックから、古ぼけた本を一冊取り出した。]
『或るとしの春、私は、生まれてはじめて本州北端、津軽半島を凡そ三週間ほどかかって一周したのであるが、───』
[開いたページの文字が目に入ってきた。]
お祭は明日かぁ。
灯りがともったら、また様子は変わるんだろうな。
[何かのコピーらしい紙切れを手に、鳥居の向こう側をキョロキョロと見回している。
昼間とは違ったTシャツにGパン。近くに寄れば、仄かに石鹸の香りがするかもしれない。]
[赤から濃紺に変わってゆく空の下、白く鳥居が浮かぶ。]
少し中を見てみよっかな。
[ポケットの中に、小銭があるのを確かめると、明日の祭の舞台に向かって歩き出した。]