[二重瞼が大きく開いて、
わたしの視線は動けなくなった。
文字と文字の間、
インク染みのない真白の隙間に吸い込まれるみたいに
もしくは
潜り込み入り込み消えてしまいたいと言うみたいに。
息も心臓も全部、とまってしまって
それから頭の中のシナプスが高速回転を始める。
ぶちぶちと連結が途切れて、
まともなことなんかちっとも考えられなくなる。]
[頭の中に辛うじて残ったわたしが三言さけぶ]
[違います
それ、貴女にじゃありません]
[わんわん鼓膜の内側で流れる血の音に、
それだって掻き消された。
自分でさえそうだ。いわんや他学生をや、だ。]
[たっぷり四拍。
四拍分、わたしの心臓も呼吸も休憩したかと思うと
休んだ分も取り戻そうとがむしゃらに動き始めた。]
[どうかどうか。
あの手紙を開きませんように。
クラスメイトのあの子の指が、封に掛かりませんように]
[どっくどっくの音の合間に
わたしは恥ずかしげもなく神様にお願いした。
少しすまして並んだ字面は、見る人が見ればきっと
わたしの字だと分かってしまう。
文字だけのやり取りを幾らか続けた、
顔も知らない“友人”への手紙。
普通のわたしじゃ書けないようなことが並んでるから、
だからだから、どうか神様、
明日の納豆、残しませんから**]
[わたしはあんまり図書館に来るタイプじゃない。
誰かがそう決めたみたい。
「クルミってぇ、名前のわりに男らしいよね」
笑いたきゃ笑え。
部活の子にそう言われて、
わたしは携帯のストラップ……
ふわふわもこもこしたウサギのような何かを外した。
五指の間にふわもこする感触が好きだったけど
ピンク色の可愛いナニカは、
ソフトボール部ピッチャーの“クルミ”に
似合わなかった。]
[「本とかもォ、マンガくらいしか読まないんじゃない?」
パステルオレンジのマニキュアをして
誰かはそう言った。
だから、わたしは、
図書室に来るときは朝か昼休みを狙った。
今日はたまたまだ。
たまたま、放課後図書室によって、
授業中にしたためた便箋(しかもピンク色だ!)を、
いつもの、到底学生が手に取らなそうな
人気のない古びた本のページ間に押し込んだ。
6行目に書かれた俳句を覚えてる。
『ななきそなきそ』
覚えているけど、わたしはいまにも泣きそうです。]