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―― 数日前・自宅 ――
えーっ?
おばあちゃんが?
大丈夫なの?
[仕事から帰って告げられたのは少しばかり離れた場所に居を構える祖母が足の骨を折ったとの知らせ。]
それならよかったけど……。
また元気なつもりで無茶したんでしょ。
[命に別状はなく、本人もかくしゃくとしたものだという母親の言葉を聞き、ほっと息をつく。
明日にでも病院を訪れようかと算段していると、どこか浮かない母親の顔]
どうしたの?
……あー、風音荘か。
[祖母は自宅から通うのが難しい学生のために昔ながらの下宿を営んでいた。]
[案の定、母親の懸念はそれだったようで。]
食事の準備とかいろいろあるものね。
[仕事はあるもののそこは小さな店のこと、事情を話せば融通はきかせてくれるだろう。]
お母さんも仕事そうそう休めないでしょう。
交代でするしかないわね。
[祖母は何度一緒に暮らそういってもあの海辺を離れようとはしなかった。
入院中も気にせずにはいられないだろうから。]
すみません、ありがとうございます。
[職場へとかけた電話は快く受け入れられ、むしろ心配をかけてしまったよう。
電話を置くと、忙しくなりそうだと、ふぅと息を吐いた**]
[祖母のもとへと顔を出すのがこのところの日課。
足に巻かれたギブスに目を瞑れば、一体どこが悪いのかというほど矍鑠とした様子で、]
もう、だいじょうぶ、だいじょうぶ。
そんなに心配しないでも。
[風音荘のあれやこれやと細かく口を出すのを軽くいなして、病院を後にする。]
店にも出来上がったものもっていかなきゃな。
[あれこれと予定を組みつつ足を運ぶのは商店街。
行く先々にかけられる声はもっぱら祖母のこと。]
もう、わたしだってびじんでしょー?
おばあちゃんに伝えときますねー。
[祖母は愛されているのだと、ほんわり胸が暖かくなったり。
おまけはもちろんありがたくいただきます。]
あれー?貢さん?
[そうこうしつつも食材を着々と揃えつつふとみやった場所。
いつもなら今頃は店番をしているんじゃなかろうかと、見知った顔に思わず声をかける。]
[つんのめるような相手の様子に視線の先を追いかけるも、何も目につくものはなく。
わずかばかりなにか問いたげに小首を傾げる。]
ひさしぶりー。
こんなところでさぼり?
[にやにやと昔の素行を当てこするのもちょっとした挨拶。]
おばあちゃんに聞いたよ。
見合い話があるんだって?
[なんせ茶飲み友達の多い祖母の情報網は侮れません。]
とうとう洗礼をうけたか。
[少しばかり前の自分の姿を思い返せば、同情心も湧いてくるというものです。]
わたしー?
そっか、そっか、おばさま達を振り切るのにどれだけ苦労したか聞きたいか。
[暗にながくなるわよーとでもいいたげである。]
まぁ、結婚したくないわけじゃないんだけどね。
しばらくは気楽なままでいいわ。
[マイペースなのが玉に瑕というか、人に合わせるのはどうも苦手です。
そのうち気の合う人でも見つかればと、本人はいたってのんきなものです。]
あ、鎮痛剤が少なくなってたのよね。
ついでがある時でいいから、お願いね。
あと風邪薬も。
[祖母にたのまれたあれこれ。
ついでとばかりにお願いして、ひとつ用事がか片付いたとばかりににこにこ顔です。]
[思いの外真剣な悩みだったようで、これは気の利いたことのひとつも答えなければならないかと頭の中で言葉をこねくり回してみたものの、
諦めた。]
こればっかりは相性とかタイミングとかじゃないかなー。
今は結婚とか考えられない、ってのじゃないんなら会ってみてもいいんじゃないかしら。
[当たり障りない、けれど本心ではある。]
元気元気。
風音荘のことが気になってしょうがないみたい。
今にも病院抜け出してきそうよ。
[さきほどの祖母の様子を思い返して、話す声も笑に震える。]
また時間のある時にでもよってよ。
おばあちゃんよろこぶわ。
[風音荘は昔も今もちょっとした学生のたまり場である。
自分はさほど居合わせたわけではないけれど、友人を訪ねてわりかし顔を出していたというのは聞いている。]
今はおばあちゃんいないけど、お茶ぐらいごちそうするし。
[たいしたことは話せないけれど、わずかばかりの経験談でも聞きたいならと、そんなふうに付け加えて。]
そろそろ帰って夕飯の支度しなきゃ。
それじゃ、薬はお願いね。
[ひらひらと手をふりつつその場を後にした。]
[商店街から風音荘へと向かうその道すがら、ちょうど公園へと差し掛かった頃。]
・・・えっ?
[視界の端をたったかと、ウサギが駆けていったような?]
疲れてるのかしら?
[思わず立ち止まったその足を、再び動かしだそうと、**]
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