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[ビセと別れてから、しばらく経った頃。測定をしながら遠回りをする形で、管理棟――正確にはその裏にあたる場所に辿り着いた。
暗さを増す周囲。ぼんやりとした中で雪とハナミズキだけが奇妙に目立つ]
……
[空を仰ぎ、近くに見えた井戸の方へと歩み寄り]
[井戸の傍に立つと、その中、周囲の闇より更に深い闇を覗き込み。少時そうしていたが、後ろからした声に]
……? ああ、貴方は……
はい、今晩は。
僕は……井戸を覗いていたんですよ。
[振り向いてバクの姿を確認しては、問いかけに見たままな答えを返し]
見えますよ。見ようと思えば……
彼らの足跡が見える。
青く……赤い、やはり早くどうにかしなければ……そう、思うような。酷く強い、暗い、光が。
[隣へ来たバクを、一瞥して]
――怪物と戦う者は、その過程で自身も怪物とならないように気を付けなくてはならない。深淵を覗き込む時、深淵もまた此方を覗いているのだ――
……僕も、日ごろ胸に刻んでいる言葉です。
この季節にハナミズキが咲き乱れる。
刹那に、手品か何かのように……
そうですね、自然には、有り得ない事です。
[また井戸の中を覗き込みつつ]
ええ。彼らの存在に気が付けた者の役目を遂行しなければなりません。
彼らの存在を知らしめ、また、自身でも立ち向かっていかなければ。
だから、その途中にあるべき苦難を、厭いはしません。
何かを変えようとする者は……
幾ら正しくとも、初めは少数派であり、奇異の目に晒されるというのが、世の常です。
理論でも、思想でも、科学でも……決まっています。
……それに、痛みには、慣れています。
[最後は独りごちるように。
傘を持つ左腕を、右手で軽く握った]
[応援する、というバクの言葉には、小さく頭を下げ]
有難う御座います。
[静かに礼を言って、右手を左手に添えるようにした。両手で傘の持ち手を握り]
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