こっちはのう。
……ちょうど。夕日が沈むところだ。
[ビルの窓に夕日が反射しキラキラと輝いている。
先ほどのお人よしな警官が言うとおり、安っぽいけれど確かに絶景だった]
ところでの。
ネギヤがヘマをしてリタイアしたようだが、おまえさんはどうするかね?
わしは、残った皆で協力すべきだと思うんだがのう。
まぁ。
考えておいてくれればいい。答えは急がん。
自分探しの旅から帰ってくれば、ドゥ・シティにつくだろうて。
気が向いたら、ドゥ・シティの役所の裏側に、老舗のどら焼き屋があっての。そこの店主に「どら美に呼ばれた」と伝えるといい。
[視線はゆるやかに見えるけれど確実に落ちていく夕日に向けられ]
では、の。
[通話を切った]
─ドゥ・シティへの移動─
[ネギヤに連絡を取ったガラケーは屑鉄屋に売っぱらった。連絡の取り用などいくらでもある。
老眼鏡、冴えない帽子や上着、合皮の靴。立ち寄る街々で少しずつ買い換え、微妙にタイミングをずらし着替えていく]
ほう。
[ドゥ・シティに着いた時は、黒塗りの車に乗り、肩の上に三毛猫、膝の上にはタブレット端末を持つ大企業の重役らしき姿。
背筋を伸ばしていると60代にもみえると言うのは誉めすぎか]
あの大福はほんとに、捕まったようだの。
[一般的な方法では知る筈の無い情報を見て、悪巧みをするように、楽しそうににやりと笑う]
そして、ここにも、手が伸びてきているか。
やれやれ。「ブラックキャット」には身軽で会いたいものなんだがのう。
「あれ」とか面倒なものもおるしの。
誰が足止めに最適かのう。
─車の中─
さて。
何かを仕掛けるとしたら、どれが一番面白いのかのう。
[居場所が分かれば仕掛ける事も可能だが、駅の防犯装置に忍びこむのはたやすい話だが、監視カメラの映像をチェックするのには同じくらいの時間が掛かる。
そんな下らない作業には食指が動かない。
おまけのように自動化したアプリを仕掛けたが、引っかかるような間抜けな変装もしないだろう]
どら美は何がええかの?
[ターミナルの中にある液晶掲示板──デジタルサイネージが一斉に映す内容を変えた。
Un coccodrillo vero
un vero alIigatore
ti ho detto che l'avevo
e l'avrei dato a te.
Ma i patti erano chiari
il coccodrillo a te
e tu dovevi dare un gatto nero a me
Volevo un gatto nero nero nero
mi hai dato un gatto bianco
ed io non ci sto piu
Volevo un gatto nero nero nero
siccome sei un bugiardo con te non gioco piu ── 白地に黒い文字がシンプルに舞い踊る]
[軽快な黒猫のタンゴのメロディに乗って踊る文字は、道行く人は新手のプロモーションだと思っただろうか。
それは3回繰り返すと唐突に切れて、元の宣伝を流し始める。
アン・シティで作戦を練るときに、有事の際の経過駅での合流箇所の打ち合わせをしていた。
いくつか指定してい有る中の、3つ目の場所を思い出す人はいるだろうか]
では、行くかのう。
[運転手にチップをはずむと、三毛猫を肩に乗せたまま車を降りた]
─古いホテルの一室─
[その街で3番目に古いホテルの一室にとある会社の名義で部屋を押さえていた。
三毛猫を肩に乗せた老人を止める事なくそこに案内し、ソファでくつろぐことにする]
さて、のう。
[仲間には伝わるかもしれないが、警察はもちろん『ブラック・キャット』を知る他の機関の人間の目に付く行動。
普通であればバカなこととしか思えない行動を取っておきながら、なお、楽しそうにソファでくつろいでいる**]
何かが足りんのう。
[しばらくして、何かを思い出したかのように忌々しい顔になると、すわり心地のよいソファから立ち上がり、フロントに電話を掛ける]
日本茶と和菓子を持ってきてくれたまえ。
[やがて届いたソレを見て目を細める]
大福……か。
[尋ねれば予約した人間からの指定だという。
溜息をついてベルボーイにチップを渡して追い出すと、苦笑いをした]
あいつにホテルの手配を任せたのが間違いだったのう。
誰かが囮にでもなるかして、警察の目をアレからそらさない限り、せっかくの大仕事は難しそうだと思うんだよ。
[意味ありげに黒猫のタンゴを流しておいてぬけぬけと言う]
だから、わしが囮になろうと思うんじゃが──。
驚く発言かの?
[ザクロのリアクションは予想していたとはいえ、それでもなお楽しそうに目を細める]
そもそも、わしらは大仕事をするために集まったんじゃろ?
仕事をするために手段を選んでる場合でもあるまい。
囮にすべき相手、か。それは誰かの?
わしは取り立てて武器の扱いに優れたほうではないが、それでもこのくらいの距離であれば、銃の的を外したりはしない。
しかし、そういうやり方も好みではないしのう。
時間を稼ぐ間に──捕まってしまうのは、もっとばかばかしい。
[近づくザクロに特に警戒することは無いように見えた]
まさか。
[余裕の笑みは崩れないけれども、それは平常過ぎる表情]
むしろ、わしが警察に捕まったと聞けば、嫌がる人間の方が多いだろう。
「あれ」を含めて、な。
[心底楽しそうに笑った]
では、協力頂けるかな?
たとえばそう、ファンクラブとか──**