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─自宅─
[男は、自宅で愛用のカメラの手入れをしていた。無骨な見た目に反して、この男、意外にも繊細な写真を撮る]
よし
[頷く顔は、満足げ。
荷物を揃え、向かう先は夏至祭の会場となる湖畔。もう、だいぶ人も集まっている頃だろう]
折角の祭りだ。良い顔、沢山残してやらないとな。
[命よりも大切な、使い込んだ機材一式を肩に背負い、家を後にした**]
─湖畔への道─
え、あ、うん、
まあ、祭りの度に酔っていりゃあ、な。
[冒険家だのエスパーだのテレポーテーションだのというイェンニの心の声>>62>>63は、しかし彼女の口からだだ漏れだった。
とは言え、それを指摘したら大真面目に『やっぱりお見通しなのね』というような事を言うのは目に見えていたので、曖昧に頷くしかなく]
………、
…仮も何も、エスパーじゃなくて、ただの写真家。な?
[それでも、聞こえているかどうかはともかく、苦笑しながら訂正する。撮影の為に村を留守にしがちだから、冒険家というのはあながち間違いではないが]
危ないな。
ほら、捕まって。
[ふらふら。ふらふら。
転びそうになり、明後日の方向に向かっていくイェンニの腕を取り、支えるようにして彼女の家に向かった]
ああ、今年も天気が良さそうだ。
[空を見上げ、眩しそうに目を細める。この日差しじゃ、あの白い司書には難儀だろう、なんてことを思いながら。
クレストとは特別親しい訳ではないが、あの風貌は嫌でも目を引く]
折角の夏至祭だ。写真を撮るにも、楽しむにも、綺麗に晴れてる方が良い。
それに、燃え盛るコッコを眺めてやりあうサハティは格別だからなあ。
[ぺろり。唇を舐める様は、まるっきり参加者の顔だった]
…へえ、イルマが。それは楽しみだ。
[それでも、櫓が立派だと聞けば>>66写真家の顔だ。肩に背負った『相棒』も、写したくて仕方がないに違いない、と思うとわくわくしてくる]
…ん、修行か、そうだな。
納得のいく写真が撮れるまで、随分かかった。…いや、違うな。カメラに、納得のいく良いモノを撮らせようとしているうちは、全然駄目だった。
親父や爺さんには、カメラの言うことを聞けって、散々言われて、そうしているうちに、段々とカメラの心が分かってくるって言うか…
カメラが撮りたいモノと俺が残したいモノっていうのが合うようになってきて、それからだな。自分の写真に納得が行くようになったのは。
[きっと、何のことを言っているか分からないだろう。酔っぱらっている彼女は、もしかしたらエスパーではなく魔法使いだと思うかも知れない]
[その場にあるモノをあるままに、それ以上に。形として残しておきたい理由が、男にはある。
盲目の友人に、これから先――たとえどれだけ先になったとしても――彼の目に光が差した時に、自分が見てきたものを見てもらいたいから。
それがただのエゴであったとしても。
だから、形のあるモノを標本という不自然な形で残そうとするニルスには、複雑な心境を抱いていた**]
[天の助けか。
どう切り返したものかと悩んでいると、ゆったりとした声>>81がかかった。見れば、この村に居を構える養蜂家の男だった。
とはいえ滞在しているのは冬の間だけで、雪が溶ければ各地を転々としているのだが、それでもこうして、祭となると戻ってくる]
…イェンニ。
グダじゃなくて、ダグ。
[ペガサスという言葉に苦笑を浮かべつつ、相手の名前を微妙に間違えたイェンニ>>87の耳元に囁いて]
そろそろ戻ってくる頃だと思っていた。
今年のコッコは立派なものが出来るらしいぞ。
[すれ違い様の挨拶。そのついでに今しがた聞いたばかりの話を伝え、ひらりと空いている方の手を振って別れた]
[――嗚呼。さらば、天の助け]
―イェンニの店の前―
[どうすればイェンニに分かってもらえるのだろう。
いや、いやいやいや。
酔いさえ醒ませば、自分がただの写真家である事は思い出すはず]
…ああ、うん
[次々に紡ぎだされるイェンニの言葉に適当に相槌をうちながら、彼女を家に送り届けた>>86。きっと今も壮大な物語が彼女の脳内で繰り広げられている事だろう……と思えば、彼女の口から紡がれる言葉>>86はまともなもので、却って驚く]
いや、まだ時間もあるから気にしなくていい。どうせマティアスの所にも寄って行こうと思っていたんだ。まあ、あいつの事だからもう行ってるかもしれないが。
…それより、具合は大丈夫か?
[そのマティアスが既に会場にいて、しかも結構な量を飲んでいる>>91事は薄々感づいていながらも、一度村に戻ったのなら声をかけていこうと思い]
そうか。
じゃあ、折角だから頂こうか。
[コーヒーを、と誘われればそれに応じる。ここに至るまでの状態を思えば、家に送り届けただけでは安心出来なかった。どこまでも世話焼き体質である]
―湖畔へ―
[さてイェンニからコーヒーを世話になった後、果たして彼女の酔いは覚めただろうか。
湖畔に戻るようであれば伴い、まだ休むようであれば一人で、湖畔に向かう]
[途中、マティアスの家に立ち寄るが、案の定留守だった。
大方、酒に釣られて先に行っているのだろう。彼が盲目である事も飲兵衛である事も、誰もが知っている事だろうからさほど心配はしていない]
…と、悪い。
先に撮らせて貰っていいか?
[荷物を降ろし、カメラを構えると飲み交わす彼らの写真を撮る。
人々。そして風景。
かしゃり、かしゃりという音と共に、『今』を切り取ったかのような画が、次々とカメラに収められていく]
よし。こんなものでいいだろ。
それじゃあ俺もひとつ貰おうか。ずっと酒の匂いを嗅いでいて我慢の限界なんだ。
[何枚か撮るとカメラを荷物に仕舞い込み、俺も、と商人に酒を所望する。
マティアスやミハイルには及ばないが、酒は飲める方だった]
写真は、俺とコイツが見たモノを、形として残してくれるからな。
[『コイツ』と言いながら、相棒のカメラを示す。
色が無いはずの写真なのに、この男がこのカメラで撮ると、まるで『今』を切り取ったかのように繊細で、その場の情景が目に浮かぶような画が撮れるのだった。
サボっている事がバレると慌てるミハイル>>116も、フード姿で写真に写ることを気にする様子の見えるクレスト>>121も。きっとそのまま残る筈]
まあ、気にすんな。見世物にはしないさ。
…その時の自然な瞬間を、大事に残しておきたいわけよ。
[ちら、とマティアスの方を見た事に、気づいた者はいただろうか]
ああ、またな。
…全く、賑やかだなあいつらは。
[クレストに悪戯し、追いかけられるミハイル>>118>>119>>125。立ち去るふたりにひらりと手を振って、マティアスの促しに応じる]
ああ、飲もう飲もう。
お前もまだまだこんなもんじゃないだろ? 潰れたらコテージまで運んでやるから、どんどん飲め。
[楽しそうに笑う友人に釣られて、つい気が大きくなる。自分の方が弱いのに。
尤も、潰れる前に体がアルコールを拒否し始めるので、弱いと言っても潰れたことは無いのだが]
…それにしても、今年のコッコは本当に立派だ。
[湖畔に目をやり、組み上げられていく櫓に目を細める。
張り切って場を仕切る若衆頭のエリッキと、手伝うダグ>>135の姿をかしゃりとカメラに収めた*]
そんな顔すんなって。いつか見られるさ。
そのために俺は…
………、いや、何でもねぇ。
親父さん、ロンケロはあるかい?
[ジンのグレープフルーツ割。定番中の定番のカクテルを頼み、マティアスとグラスを合わせる]
キッピス(乾杯)
[ちん。
グラスが、高く鳴った*]
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