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[ちりりん ちりりん 鈴の音が鳴る]
みっつめのたましい、貰っちゃった…
ついでに愛しいあの人も…。
アンさん、エビコさん、それにロッカさんや人攫いさんにスグルくんのたましい集めたけど。それでも渇きを癒すにはまだまだ足りないの…
[渇望は貪欲。わたしは雪さくらに目を細めながらも尚求める]
今日のたましい、誰が良いかしら?ねぇ?あなた――?
[目を覚ますと、今日も部屋には誰も居なかった。人が抜け出したままの布団と、畳まれた布団の二組だけ。昨日部屋に戻った時、ロッカさんは既に眠っていた。ホズミさんはわたしの寝た後に部屋に訪れたのだろうか?]
やっぱりエビコさんは…もう――
[昨日管理人室で見たエビコさんの寝顔を思い出す。けどその顔は果して安らかだったろうかすら思い出せない。それ程わたしにとっては彼女達の死は衝撃的で、気が触れそうになるのを堪えるので必死だった事を、今になって改めて思い知らされる。]
そう言えばあの後わたしは…
[抜け殻になった布団を見つめながら記憶を反芻する。管理人室で薬屋さんとすれ違いにやってきたヨシアキくん。彼に慰められた後部屋まで送ってもらい、そしてわたし達は別れた。]
「また明日、逢える事を祈って――」
[普通の生活をしていたなら、なんとも思わずに交わす挨拶。でもそんな他愛の無い言葉すら、今のわたし達には叶わぬ夢となりうる現実に怯えながらも。お互いやってくるであろう未来を信じて言葉を交わしていた。]
ヨシアキくんに…逢わなきゃ――
逢っておはようって…お互いの無事を確認しなきゃ…
[無造作に畳まれた布団が気になったけど。わたしは起き上がり着替えを済ませると、まずはヨシアキくんを探そうと部屋を出た。]
[振り向きざま、ふと自然と窓越しから見えるさくらに目を奪われる。
季節はずれのさくらは、いよいよ持って鮮やかな紅色の花の吐息を艶やかに漏らし続けていた。
それは村の伝承と交差するように、ひとの魂を食らいて花を綻ばせる根牢のように――]
[わたしはかの人に話しかける。けどいつまで経ってもかの人の声は聞こえなかった。]
もしかして…さくらの狂気に足許を掬われた…の?
[さくらは人を狂わせる。そして時にわたし達へと刃を向ける。さくらの許で謡うわたし達からも恐怖の声をせがむ様に。]
こわい こわい さくらはこわい
でももっと怖いのは さくらに狂わされし…ひと――
[鈴の音を鳴り響かせて、わたしは哂う。かの人の死すら、自らの渇きを癒せたらと願いながら。]
あれ?ここに居るのは薬屋さんとフユキさんとホズミさんだけ?
ヨシアキくん…ううん、他の人たちは?
[薬屋さんが少し気まずそうな顔をしているとか、ホズミさんとフユキさんが手を握り合っている事とか気付かずに、わたしはその場に居た三人に声を掛ける。]
え…?みんな…他の人の姿を見ていないの…?
ロッカさんも、ヌイさんも…ヨシアキ…くんも?
[みんなから聞かされる事実に、わたしの鼓動は早くなる。血の気が引ける感覚がわたしを襲う。]
『ヨシアキくんも…?』
[小さく呟いて眸を閉じた。そうしなければ…不安に透明な雫がぽろぽろと零れ落ちそうになるから。]
[探しに行こうと言うフユキさんと薬屋さんの言葉に、わたしは静かに頷いて]
わたしも…連れて行ってください。
一人で居るのは…こわいから――
[三人の顔をくるりと眺めた。他の三人もきっと無事だと自身に言い聞かせながら。]
うそつき…。
[管理人室へ移動する最中、わたしは誰にも聞こえない声でぽつりと呟いた。
果してそれは、誰に向けた言葉なのだろう?]
[管理人室に入ると、ふわりと足許にさくらの花びらが舞い落ちた。
わたしはその花びらに誘われるように視線を上げ。ゆっくりと目の前の様子を伺う。
見知った景色に、ゆっくりと息を吐きながら。]
「ヨシアキ君?」
[ホズミさんの、何処か絶望したような声を聞き、わたしはどう思っただろうか。]
もう…嘘をつくのは飽きた。
[わたしは深く溜息を吐きながら呟いた。
それはフユキさんと薬屋さんが外に向かって席を立った後だった。]
[遺体の並ぶ部屋にはわたしとホズミさんだけが残っている。ホズミさんはわたしを案じて抱きしめてくれていた。]
『そんなこと 必要ないのに…』
[わたしは心でそっと呟く。]
[悲しみを分かち合おうとしてか、ぎゅっと抱きしめてくれるホズミさんから身を離し、わたしは彼女に向かい合う。]
ホズミさん、わたしの事、心配してくれてるの?ありがとう。でもね、案じてくれなくても大丈夫だよ?
だって…ヨシアキくんは…。
[わたしはにやりと口嗤う]
わたしの力で殺したんだもの…。
[くすくすと、小さな声を立てながら――]
[後ずさりするホズミに、わたしはにっこりと微笑みかける]
やだ…逃げなくてもいいじゃなぁい?
それに、ヨシアキくんは…自分の力を驕りたかぶりすぎたのよ?
悪魔祓いの家系か何か知らないけど…。世の中には御札の力が及ばない物もあるって――
どうして気付けなかったのかな…。
[わたしは横たわるヨシアキくんに近づき、彼が手にしていた札を見遣る。札は見る影も無いものに変化していた。]
[泣きながら問い質すホズミさんに、わたしは困ったように視線を伏せて]
わたしだって…好きで殺したわけじゃないわ?
ヨシアキくんがわたしの事をそっとしておいてくれたなら。
[ヨシアキクンの許に跪き、彼の髪をやさしく梳いて]
わたしだって彼のたましいを貰おうとは思わなかった――
[「信じない」
そう言ってふさぎ込むホズミさんに、わたしは何て言ったら良いか困り果てる。
本当ならこんな下らない情に流されて、自らの身を危険に晒すことなんて有り得ないのに…。
封じ込めたはずのナオという子の心が。"わたし"を突き動かしているのだろうか?
それともわたし自身も。あのヨシアキと言う少年に絆されてしまったのだろうか?]
残念ながら…。あなたが知っている"ナオ"はもう居ないわ。そう、この子がこの村に来てすぐに、わたしが奪い取っちゃったから。
でも――、ヨシアキくんを好きだった気持ちに偽りは無いの。これはホントよ?
[わたしは髪を梳く手を頬に滑らせて。自らの唇をそっと重ねた。初めて重ねた唇は冷たくて涙が出そうになった。
今更ながらに気付かされる。あぁ、わたしは本当に彼に心惹かれて居たんだと――]
[さくら越しにフユキさんの声が聞こえた。]
「まだ、足りないのかい?」
うん、まだ…渇きは言えないの…。
さくらの渇きは癒えないの。
[わたしの声は彼に届くことはあるのだろうか?]
[抱きついてきたホズミさんをあやすようにぽんぽんと叩いていると、フユキさんがロッカさんを抱かかえてやってきた。]
あぁ、見つかっちゃったんだね。白い膚に赤い文字。綺麗でしょう?
[もう隠すのも面倒だと思い、わたしはフユキさんににっこり微笑んで。
耳許で囁くホズミさんの問い掛けには何て答えようと頭を悩ませる。]
ころして…ほしい?
[つぶやいた言葉。口許は果して醜く歪んでいただろうか?それとも――]
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