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―3階スポーツ用品売り場―
[目を開けても、まだ視界は暗かった。
ばさりと目の前の暗幕を開く――明るい]
……野営用具か。
[キャンプ用品売り場のテントの中から、もぞもぞと身を乗り出す。背後の人影にびくりとした]
なんだ、人形か。
随分呑気な顔をしてる……。
[4体並んでキャンプの風景だ、父母姉弟の家族連れのマネキンは腹立たしいほどの笑顔で、目蓋の裏に残る終焉の光景がちくりと目に沁みた]
――で、装備は無いのか。
[相変わらず半裸といって等しい我が身を省みる、シュラフが転がっていたが流石に蓑虫になるのは困る。ふと手にしたままのICレコーダーが答えるように音を発した]
『 8thは服を手に入れる 』
[じっと手を見る、なんだかいらっとした]
だまれこのやろう……
やっぱりこの音は、何とかしないと危ないな……。
[とりあえず風除けのビニールシートを羽織って、フロアへ足を踏み出した。ニンゲンだらけで、奇異の視線は刺さるが特に攻撃してくることはないようだ。]
『 9thは2階で和服を手にした、捨てた 』
[再びの声に、ぱちくり、瞬いた]
ワフク……、それはもしかして服か。
[獣の姿であれば服などいらないのに、もどかしい。目立たぬようにフロアの隅を歩いていれば階段が見つかった、大きく記された数字は3、下に降りぬ理由はない]
―2階・和服売り場―
おい、
ニンゲンの子供、ここにいるのか?
[頭の中を流れていたルールは、一応は記憶にとどまっている。9thはあの子供だ。鼻をわずかにひくつかせ、気配を探れどどうもピンとこない]
……感覚まで鈍っているみたいだ。
[きらびやかな衣装を纏ったマネキンと、似たような色合いの布の並び、とりあえず手には取ってみた。なるべく地味な色を選んだが]
……いや、無理だろ。
どう見ても動きにくい。
[手に取った服とも布ともいいがたいそれと、マネキンを見比べそして捨てた]
[ニンゲンたちの視線が刺さるのは、異なる存在への嫌悪や憎悪ではなくて単純なる奇異の目であることは、わかる]
ここはニンゲンだけの世界なのか……、
[マネキンの振袖の影に身を沈めて少しだけ人の流れを隠れ見やる。ニンゲンだけしかいない世界だから、彼らはあんなマネキンそっくりの呑気な顔で笑っていられるのだろうか。]
………、
[世界を変えることが出来る。
あの誰でも無いような声の言葉が蘇る]
『 8thはため息を着く 』
[身を潜めていたところで、唐突に例の機械が喋った。ついでにばっちりそのタイミングでため息をついていた]
っ、だから黙れよ。
[音を押さえ込むようにレコーダ―を両手で握る]
『 8thは7thと4thに見つかる 』
[それでも駄目押し、とばかりに機械が喋った]
[そういえば7thにも見つかっていたようだったが、何処にいるのか。猫科の名残か、動かぬ遠くのものは判別しにくい]
『 9thは、8thを見かけて風呂敷マントで逃げた 』
[4thと話している間も機械は勝手に、電子音声を再生し続ける。どうにかならないのかと渋い顔]
……精神?
?お前の世界に戦争はないのか?
[安穏、この状態はそういう風に表現するのか。不思議と言葉の不自由はなく、意味はわかるが理解しがたい概念だった]
いや、リラックスして引き締まる?
[怪訝が困惑になったが、服は着たい。くわえてその口ぶりは少し勘に触る、自分が怯えてるようだ]
……わかった、当座はその服で構わない。
襲うなら襲えばいい。返り討ちにする。
『 8thは4thに感謝する 』
[少し睨むようにいったところで、機械の電子音が重なった]
……なんで日記の癖に喋るんだ、
こいつは。
[ほどなく紺色の浴衣姿になれば、
音声機械を帯の間に突っ込んだ。
黙らせたいが音を切ったら情報が得られない。その間も『9thはおなかがすきました』『9thは地図を発見しました』などと4thにも筒抜けである]
なんだか 全く 落ち着かないが……
一応礼は言っていこう。
[袖はひらひらするし脚は開きにくい、
正直、軽い罠かと思うくらいではあったが。
布一枚よりはマシだろう]
[見やる視線から少し目を逸らす、
猫が見られて嫌そうにするのと同じ顔で]
お前はまだ僕の質問に答えてない。
お前の世界に戦争はないの?
この世界には全然兵隊がいない。
なんでこんなに安穏?なんだ、理解出来ない。
ここにはニンゲンしかいないからじゃないかと思っているけど、どうなの?違う……?
[ここにいるとどうも自分の世界は、何か少しおかしいような気がしてくるのだ。ちらと4thに戻した瞳の色はわずかに揺らぐ]
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