―神社境内・出店―
[虫の音が、今は恐ろし気に聞こえ。
店番の青年は僅かに眉間に皺寄せた。
――去年の秋祭りの夜、一人の少女が忽然と姿を消した。
随分な騒ぎになり、青年も捜索隊に加わった。
途中で学業に戻る事となったが、未だ彼女は戻って来ていないらしい。
件の本はあれから一度も頁を開かぬまま、実家の本棚に仕舞っている。]**
「 ……………、……………? 」
[夢を見ていた。
内容は曖昧だが、空が赤かったことは覚えている。
目を覚まし、身体を起こす。
顔を洗い、袖に腕を通した。]
……今年も、祭りの季節や。
[少し寝すぎたかなと思いながら支度を済まし、家を出る。
今年も、両親は村に戻ってこない。]
−商店街−
[神社で祭りの準備が行われている為か、いつもより賑わいが少ない商店街をひとり歩くと。立ち話をしている主婦達から、懐かしい話題が聞こえる。
丁度1年前1人の少女が姿を消し、村人総出で捜索が行われた。
女学生であるニキは親戚のおばさんと共に家で待機していたが、結局見付かることはなかったらしい。]
……杏奈ちゃん、か。
[気付けば足を止めていたらしい。視線に気付いたのか、主婦は「双季ちゃんも気をつけてね」と言う。
軽く頷いて、また足を進めた。
腕に巻いた赤い組紐についている鈴は、何かを誘っているかのように音を鳴らした。**]
[鈴を撫でながら、そう呟いた声は空気に溶ける。
去年の今頃、きっと鳥居を潜ったあの瞬間、
神社の裏で、1人になった瞬間。
双季は何かにとり憑かれていたのだろう。
杏奈とは違い身はそこにあれど、
意識はどこかに、奪われていたのかもしれない。]
―神社・鳥居の前―
…着いた。
[―某県の北部に位置する某村で「アンナ」という女学生が行方不明になっています―
私がテレビでそのニュースを聞いたのは京東に帰った次の日、すなわち一年前の9月27日。
だが大々的に報道されるのはそれが最初で最後であり、その後は私も色々と忙しくその「事件」のことをすっかり忘れていたのだが…]
!
[丁度一週間前。
部屋の整理をしていたら出てきたのだ、1年前のお祭りで購入した回数券の使い残りと共に“捜しています”と書かれたチラシが。
入学式の日にでも撮ったのだろうか、、、校門の前でピース姿の少女の写真がある。
しかし何故だろう、笑っているのにとても「悲しそうな」表情をしているように見えるのは?
会った事すらない人のはずなのに居ても立っても居られなかった。
すぐさま会社に連絡し、その写真に引き寄せられるようにまた故郷の秋祭へとやってきた私だった。]**