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─?─
[霧の立ち込めた薄暗い世界。
ぼんやりと立ち尽くしていることに気付くと、人形めいたしぐさで首をかしげた]
あれ? ここ……どこかしら。
[手をまっすぐに伸ばして不思議そうな顔をする]
影が無い。それに透けてるわ。
──まるで、お化けみたい。
[くすくすと他人事のように笑い出す]
あ。そうだ。私……死んだんだったわ……。
来週には帰るって言ったのに、約束、やぶちゃった。
[伸ばした手をくるりと翻すと、小さな小瓶が現れる]
まるで魔法みたいね。ふふ。
あなたに手紙だけ届けたかったのに。
ううん。私の歌声を聴いた人に届けて欲しかったのに。
──私が来ちゃったのね。
[寂しそうに微笑みしばらく黙り込む]
[そうっと小瓶から手紙を取り出し目を落とす]
なんて書いたんだっけ?
『お元気ですか? 私は元気です。』
月並みな出だしだわー……あ。でも、元気も何も死んだんだけど。
──ま、いっか。過去に届くわけだし。書いたときは元気だったし。あの頃も元気だったし。
『私のことを心配してくれてるってマチコから聞いたの。
ありがとう。そしてごめんなさい。
あのね、私、今度レコード出してもらえることになったの。
ざくろの花って言うのよ。
とってもいい歌よ』
[ため息を付いた]
なんて言っていいのか分からないとはいえ、酷い手紙だわ……。
ざくろの花は……あんまり……ぜんぜん、売れなかったけど。
関ると死ぬ、とか、呪いの歌だとか、変な噂も出てきたしね。
『だから、もう、心配しなくても大丈夫よ。
私は歌で頑張るから、あなたも、お仕事頑張ってね。
体を大切に、事故とか、対向車には気をつけてね。
いつまでも、元気でね。奥様と仲良くね』
[手紙を読み終えると、元通りに瓶に納め、大事そうに胸元に抱きしめる]
でも、洞窟に届けないと手紙は届かないのかしらね。
この手紙があの人に届いて、対向車に気づいてくれるかしら。
そして、あの人が事故に遭わないなら……嬉しいな。
[口の端に笑みを浮かべる。わずかに悲しみの入り混じる微笑み]
そうしたら、ざくろの花は、呪われた歌だなんて呼ばれなくなるのかしらね。そうだと、いいな。歌には、罪なんて無いもの。
[瞳を閉じて、静かに何かに祈るかのように、ざくろの花を歌い上げる]
──。
[歌い終えると、慣れたしぐさで優雅に一礼した]
幽霊でも声って出るのね。ここで歌ったら誰かに届くのかしら。
届くなら巡業でもしちゃおうかしら。ううん……届かなくても、歌うわ。私の選んだ道だから。
でも呪いの歌を歌っていた私が死んで、巡業先に化けて出たら……ほんとに呪いの歌かしら?
[くすくすと笑う]
でも、いいわ。歌えるなら、お化けだろうがなぁんでも。
[楽しそうに笑いながら、新たな歌を唇に乗せる]
ひかりの中で見えないものが
やみの中にうかんで見える
まっくら森のやみの中では
きのうはあしたまっくらクライクライ──
[ほの暗い霧の中を、*楽しそうに歩き始めた*]
さかなは空に小鳥は水に
タマゴがはねて鏡(かがみ)が歌う
まっくら森は不思議なところ
朝からずっと
まっくらクライクライ
[つと足を止めて見覚えのある建物に首をかしげる]
あら、ペンションじゃない。
あ──私と、アンちゃん──。
[樹の下に横たわる見るも無残な死体を悲しげに見下ろし、近くにアンが居ないか視線をさまよわせる]
居ない、か。アンちゃんは天国に行ったのかな?
……あれ。でも、私、何で死んだの?
[こめかみに指先を軽く当てて眉をひそめる]
覚えてない……やだ。熊とか、野犬?
[不安そうに立ちすくむ横をゼンジが通り過ぎていく、その視線は決して自分には止まらない]
ああ、やっぱり見えないのね。若旦那さん、どこに行くのかしら。
[寂しそうに微笑んで見送る]
気をつけて行ってらっしゃい。
[戻ってきた車とゼンジの様子に不安そうにみつめる]
若旦那さん、大丈夫?
いつもの余裕のある笑顔が消えてるわよ。
あら、セイジ君も来た。
熊や野犬の仕業なら、ゼンゼンとセイセイでコントしてる場合じゃなくて、ペンションに早く入った方がいいんじゃないかしら?
コントしたらすごいと思うけどね……。
むしろコントするくらいの方がいいのかしら。
あらら、ボタンさんも来たわ。
ルリちゃんひとりぼっちなのかしら。
うーん。誰にも見えないと言うのも、切ないわね。
[苦笑すると、手持ち無沙汰そうに歌を口ずさみはじめる]
──耳をすませば何もきこえず
時計を見ればさかさま回り
まっくら森は心の迷路(めいろ)
早いは遅い
まっくらクライクライ
[ボタンの影にルリを見とめて]
あ。一緒だったのね。よかった……のかしら。外は危ないわよね?
[ゼンジとセイジのやり取りを耳にして眉をひそめる]
何が起きてるのかしら? お化けも居るしね。
[冗談めかしてつぶやくと、肩をすくめた]
[セイジの視線に気づき、背後を振り返るが、もちろん何も無い。
手を差し伸べられ、少しためらった後、ゆっくりと右手を差し出す。
──するり、と、手がすり抜けた]
あら、残念。手を取ってもらおうかと思ったのに。
もしかして見えてるのかしら? 聞こえる?
外は危険かもしれないわ。気をつけて。
[なるべく明るく聞こえるように微笑んだ]
て・が・み。
[セイジと同じ形に唇を動かしてつぶやく。
不思議そうに首をかしげながらも、胸元から小瓶を取り出し、そっとセイジの手のひらの上にのせた]
これでいいかしら?
[セイジの手のひらに乗った小瓶を見て、目を丸くする。
そして手のひらの上から消えるのを見て、びっくりしたように声を上げる]
すごい。魔法みたいね。
そう──届くのね。
ありがとう。よろしくお願いします。
[にっこりと微笑むと丁寧にお辞儀をした]
ありがとう。若旦那さん。セイジ君。
[所在ななさげにたたずみ。
ゼンジとセイジの様子を見つめている]
……野犬でも熊でも無いの、かしら。
ああ……思い出せればいいのに。
[珍しくまじめな顔をして、手を口元に当てて考え込む]
あれ? 居ない?
[考えているうちに姿を消した2人に驚いて、きょろきょろと辺りを見回し、アトリエの扉が開いているのに気づく。
中を覗き込み手を合わせる若旦那にお辞儀をする]
安置してくれたのね。ありがとう。
怪談……だわね。確かに。
おかしいわ。どうしてこう恨めしいとか何か出てこないのかしら。
[去っていくセイジに軽く手を振る]
オカマの若旦那さん……似合いすぎるわ。
何か気付いたら、セイジ君に知らせよう。うん。
[アトリエのイスに腰掛ける]
ふぅ。少し疲れちゃった。
[アトリエの中で、ゆるやかに目を閉じながら、ザクロの歌を歌い始める。
姿の見えないアンの魂が、安らかに、天に昇っていることを祈るかのように。
ジロウとマチコが、無事であるように。
皆が無事であるように。
そして──あの人に手紙が届くように]
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