[「ちょっと男子ー!」
いや、私はそういうキャラじゃない。
「まあ待ちたまえ、何があったんだい」
そういうキャラでもない。
それに、近藤さんといえば車椅子で有名だ。私は向こうを知っているかもしれないけれど、あっちは私のことなんて知らないかも。どっちが悪いかなんて分からないし見てもいないのだから、私は何も見ていない。そう、それでいいのだ。
何だか相手の男子は頼りなさそうだったけれど、助けを求められたわけでもないし。目を逸らして別の方を見る。]
[私はもともと、そう派手な人間じゃない。友達の中でもいちばん地味だという自覚もある。明るくて人気のあるナオはみんなから好かれてるし、弦楽部のハツネなんて男子からも女子からもすごくモテる。……もしかしたら、幼馴染のあいつよりも地味かもしれない。眼鏡の癖に生意気だぞ。
頭の中でぐーるぐる。
誰にも言わない思いはコーヒーとミルクみたいに混ざっていって、変な自己嫌悪かはたまた八つ当たりか、することもないしぐるぐるとその場で回ってみたりして。目が回ってきた。私は何をしているんだろう。]
[ぐるりぐるり。
回る世界を見るのにも飽きてきて、足を止める。少しふらついたけれど、大丈夫。私のこういうところを、友達はときどき呆れるみたいに見てる。私は呆れられる、理解されない孤独さが心地良くて、たまにわざとこういうことをしてみる。友達が少ないのはこんなところに理由があったのかも。
足音が聞こえたように思って、くるくるする目を向けてみる。赤みがかった髪をしたあの子は、時折見る――いや、それよりこっちに――]
[どしん。
身体に衝撃が走った。
あ、倒れ――ない。今まで自分で思ってたよりも、私って丈夫だったりして。それよりも、ぶつかってきた相手が気になった。立ち尽くしたままか、転倒したか、ともかく少女の方へ向く。]
…………大丈夫?
[顔を見ようとして、先に。彼女の手元が夕方の空気の中、目を刺すように白く――]
[封筒?
図書館で、封筒?
この子は何だろう、たまに見たことはあったと思うけれど、図書館に封筒を持ち込んだりすることってあったかな? それに、こんな辺鄙な本棚の間に来た勢い。
この辺りには、本棚を見たら統計学とか財政って本が並んでいる。私は本の分類については全然知らないけれど、これって人気のある分野じゃなかったよね。
私は相手を心配するよりも、顎に手を当てて、ふうむと考えてしまった。名探偵ごっこ、なんちて。**]