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― 飛ばされる前の話 ―
[もちもちした人の言葉とか、人間っぽく見えるのに人間じゃないらしい男の子の話とか、耳に入ってくるのは理解の斜め上をいくようなことばっかりで、口を挟めないまんま時間だけが過ぎてく。
鞄の中の手のひらサイズの端末を確かめるのも忘れて、どうしようかなぁ、なんて途方に暮れてたら、>>#0 また声が響き始めた。
目の前の球体に映し出される光景は、野球部の後輩とか、同級生とかが割れた地面に飲み込まれていって、そして―――]
おばあちゃん!
[おばあちゃんまでもが、地面の中に落ちていく。
そこで映像は、ぶちんと途切れた。
予想図、って言ってたけど、それは私の世界のスクリーンで見られるどの映像よりも恐ろしくて……背筋が、ぞっとした。
思わずぎゅっと、瞼を閉じる。]
― 4F・本屋内 ―
………えっ?
[次に目を開けた時、私がいたのは、私の世界ではもうお目にかかれないもの ―― 本屋さんの中だった。
電子媒体が主流になって、私の世界からは紙媒体が消えていった。
今でも存在してはいるけど、それだけでお店を開けるほどの量は流通してない。
だから、棚の上に平積みにされてる本を見て、とてもびっくりした。
うちの家には割と本が沢山あったけど、それもおばあちゃんがコレクションしてたから、ってだけだったし。
それに、何より。]
これ…………おばあちゃんの、
[私のいる位置の傍らに積み上がっているのは、おばあちゃんがお気に入りの推理小説。
黄ばんでもいなければページがよれてもいないそれは、明らかに新品のもの。
おばあちゃんが持ってる年代物とは大違いの。]
[世界がどうとか、生きるとか死ぬとか。
そういうのを考えるのは恐ろしい。
予想図を見たから余計に、他の世界を壊すのも、自分の世界が壊れるのも怖い。
でも。]
……おばあちゃん、喜ぶかなぁ。
[この新しい本を持って帰ったら、きっとおばあちゃんは喜んでくれる。
その為に、生き残る努力だけはしてみよう。そう、思った。]
[いきなり鞄の中で、端末が震える。
それを手に取れば、映るのは「Game start」の文字。
画面に触れると、それは割れるように砕けて、勝手に日記の画面が起動する。
内蔵されてる、ってだけで一度も使ったことのないそこには、私が本を買ったことが書かれてあった。
書かれてある時間は、……さっきより、随分前。]
……現状把握。それと何だろ。何が必要かな。
[考えながら、私は飴を一つ、口に入れる。
甘酸っぱいレモンの味は、頭を少しだけクリアにしてくれる。
本屋を出て、辺りを歩き回っていれば、お目当てのもの……フロアマップは、すぐに見つかった。]
[フロアマップを写真に収めるシャッター音に混じって、何かの着信を告げる音。
画像を保存して画面を見れば、自分の行動が記された頁の隣に、もう一つ新しい頁。
横スライドして見る機能なんて、あったっけ。
そう思いながら、指先を横に滑らせる。]
……えーと。
4番、女性もののシャンプーをゲット。
―――――― なんで?
[私の行動じゃない。とすれば、思い当たるのは他の参加者。4番、って呼ばれてたのは、私の隣の和服の……男の人。
疑問は、いろんな方向に向く。なんで他人の行動が書かれてるのか。なんで女性ものなのか。]
[もう一度スライドして、画面を自分の画面に戻す。
『フロアマップをゲット!』
そう書かれてあるのは、やっぱり実際に写真を撮るより、ちょっと前の時間。
そこに、新たな文字が現れる。
『日記に未来が書かれてるのは分かったけど、これってどういうこと?
途方にくれる。』
そう、まさに今の私は、どうしたものかと*途方に暮れていた*]
[どうしようか、なんて思ってる内に、目の前のエレベーターがチン、って音と一緒に開いた。]
あれっ。
[中に2番の子がいるのが見えたけど、彼女は戦える子みたいだし、いきなり襲いかかられたりしないかなぁ、なんて思ってる内に扉が閉まっちゃった。
ほっとしたような、残念なような。
多分、私には仲間が必要。出来れば、戦えるひと。
神になるのが1人以上、ってことは、多くても構わない、ってことだ。
それと、武器。私が得意なことに見合った武器。……出来れば、人を殺せたりするやつじゃなくて、逃げる時間が稼げるようなやつ。
迷った末に結局私は、2番が降りて行ったのと反対のエレベーターの、上矢印のボタンを押す。]
[二人が鉢合わせるのを、物陰からじっと見てた。勿論、物騒なことが始まったら、全力で逃げるつもりで。
でも、そんな様子はない。
それどころか、たこ焼きの良い匂いがする。
私はそーっと、隠れていたゴミ箱の影から顔を覗かせる。]
[そういえば、ルリちゃんが魔法とか何とか言ってた。
で、ソラさんは杖持ってた。
ちょっとした悪戯で、端末の画面の上で指先を横に滑らせる。
いきなり変わった画面に、驚いたりするかなぁ、なんて。]
んー……ソラさんのも隣の人の、なんだね。
じゃあこれ、未来のことと、隣にいた人のことが分かる日記なんだ。
お兄さんのも、隣の人のが分かるの?
……あっ、私、クルミ。
[まとめた内容を口にしながら頷いて、ついでに1stのお兄さんにも質問。
最後に、忘れてた自己紹介を付け足す。
名乗られたら、自分もちゃんと名乗りなさい、っていうこれも、おばあちゃんの教え。]
ソラさんも、戦う世界のひと?
前衛?後衛?
[女は家族を守るものだよ、っておばあちゃんが言ってたのを不意に思い出す。
他の世界の女の人は、結構戦ってるんだなぁ、なんて思ったから。]
ああ、チート日記があるんだっけ……。
んー……上手く生き残る方法、ってないかなぁ。戦わないと、駄目なのかなぁ。
[所々にゲーム用語が混じるのは、仕方ない。だってそれが私の日常用語だから。]
んー……もしかして、戦わない派って、少数なのかな。
[>>179まだ全員と話してないから、そう決まったわけじゃないけど。
つられるように、男の子を見る。
でも、戦わない派が少数なら、私とかはいいカモだ。
だとしたらやっぱり、私には味方が必要。
鞄を探って、飴を2つ取り出す。一つはソラさんに、もう一つは男の子に差し出した。]
私、生き残りたいけど……隠れてるとかは、フェアじゃないから嫌だし、だからその……手を、組まない?
誰かを殺したりとかは出来ないかも知れないけど、……投擲なら得意だし!
[野球、って言って通じるのか分かんなかったから、少し言い換えてみる。
物を投げることに対しての精密さは多分、誰にも負けない。
二人を交互に見つめて、返事を待つ。]
フェアはスポーツマンシップでもあるからね!
そこは譲れないから。
[ソラさんの手は、マメの潰れた私の手よりずっと皮膚が硬い。
いっぱい苦労してきたんだろうなぁ、って分かる手。
にっこり笑顔で握り返して、ちょっと上下に振って、離す。
渡したのは、林檎の味の飴。]
そうだ、武器!私、武器を取りに来たの。
1階に色々ありそうだったんだけど……あ、地図、もう見た?
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