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幽霊なんているわけないじゃん。
[そう言う表情は強張ったもので、時計をちらりと見ると、喫茶店を出ようと後ろを向く]
お大事に。
[外に出ると、途端に汗が*滲んだ*]
―昼・自室―
凛子ちゃんがいれば起こしてくれるのに。
[部屋を共にしていた姉が、東京で一人暮らしを始めたのは数年前の話になる。
それなのに今でも、寝坊するたびに思い出してしまうのは、朝から五月蝿かった姉のこと]
サボりたいなぁ……。
[布団を畳んで押入れに仕舞うと、ゆるゆると制服に着替えて家を出た]
―喫茶店―
え?
いえ、昨日ここで見たきりです。
[マスターに問われたアンの行方。
自分のように寝坊しただけではないかと訊ねるも、昨晩帰宅していないという説明をされて黙り込む]
ちょっと夜遊びしてたら帰りそびれたんじゃないですか?
マスターったら心配性なんだから。
誰かに会ったら、訊いてみますよ。
[憔悴した様子のマスターに昼食を注文することは憚られ、学校へ向かうことにした。
人影があればアンの行方を訊ねようと*思いながら*]
―よろず屋―
あんぱん一つください。
[買物だけで終わるつもりが、店主の老婆は世間話を始める]
狐?
[老婆は言った。まるで見てきたかのように]
―喫茶店―
“狐様に連れられた。”
[抑揚なく繰り返す。
老婆は言っていた。それが繰り返されてきた営みであるかのように]
アンちゃん、消えたんだって。
菊婆が言ってた。
[菊婆さん手作りのあんぱんを右手に握り締め、喫茶店の入口でぼうっと立ち尽くした。
信じているのかいないのか、サヨは自分でもよくわからなかった]
[自由帳をちらりと覗き込み、落ち着いた声で誰にともなく訊ねる]
誰がやったの?
[赤いインキで名を潰すなど、趣味のいい話とは思えなかった]
夜道で見まちがえたんじゃないのって聞いても、そんな耄碌しとらん、の一点張り。
神隠し伝承は、帰ってきたり帰らなかったり、年を取って帰ってきたり、だっけ。
[マスターの目を盗んで、買ってきたばかりのあんぱんをちぎって口に放り込む]
ああ、あの人冬木さんっていうんですか。
作家さんでしたっけ。
愉快犯が、犯行予告でもしてるんですか?
[問いをポルテに向けても意味はないのだが、手紙を返しながら訊ねた]
ノートに落書きした人と同一人物なのかな……。
[口元に手を寄せ、俯きがちに考え込む]
人攫いという告発ならわかりますけど、「ではない」というのは何なんですかね。
[喫茶店店主の目を盗んでの買い食いは終わり、ゴミはスカートのポケットにしまいこんだ]
まぁ、あれですよ。
夜遊びせずに早く家に帰りましょう。
郵便受け見張っていたら、誘拐犯来るかも知れませんね。
[少し笑って、喫茶店の扉を開く。
むせるような暑い空気が流れ込み、サヨは顔を顰めた]
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