ナオのはじめの一歩は、軽く蹴躓く。
――ころりと転がるのはサヨの生首。
ひとりしか通るいとまなく、
エレベーターの扉はすぐに閉まる。
動き出す。
[蹴躓いたナオは、走り去っていった。
"それ"を、走ると表現して良いものならば。
そしてサヨの"それ"は…筆舌にし難かった。ブザーが鳴る。]
えいっ…とうっ
[とす…と手刀ひとつ。マシロのおでこに打つ。
まるで何かを追い出したいかのように、続けて幾発も。]
マシロ。私は判る。そう言ったはずだ。
[見つけたの。でもその霊感。本物なの?私は小首を傾げる。]
["追い出す"ことは、言葉ほど簡単ではない。
躊躇いとか、偽善とか、そういった言葉がついてくる。
サヨの手をにぎったまま、マシロとナオを見つめていると、ナオが上の階に放り出したあの錘をとるためにか、本当に降りてしまった。]
あ……、待っ
[いざ行かれると怖いなんて――ひどく身勝手で滑稽だ。]
[けれどナオに気をとられた一瞬――ほんの一瞬に。]
……サヨ、ちゃん………?
[手にしていた体温は少しの余韻を残して薄くなる。
みえたのは、まだ余韻消えきらぬそのひとの――くび。
隣をみることができない。
けれど手探りに、彼女の手を探すかのように手はふわふわとサヨがいたはずの場所を泳ぐ。]
[そんな中、何かを祓うようにマシロをはたくチカノ。
うつろな目を這わせて言葉の意味を舐める。]
チカノちゃん………?
[判る、と。
霊感だと言った彼女がマシロを"そう"と判別したらしい。
けれど――]
もし、誰かが犯人、なら。
どのみち私には……。
[暫しチカノを見つめた後、マシロの言葉を待つように視線を動かした*]
まさか本当に出て行くとはな…ハハッ!
[アナウンスに急かされ、友人に促され。
名指しされた少女は、少し躓きながらも迷わず走り去る。
見送る姿に、憑りつく者は美しく笑む。
涼やかに、声を高らかに。]
更におひとり様、ご案内いたしました。
お客様、よきお時間をお過ごしくださいませ。
――永遠に。
[生首だけになった少女の姿を見遣り、目を細めた。
扇状に広がる美しい髪が印象に残る。
嗚呼、そう言えば先に案内をした少女も。
美しい長い髪だったと知る。]
さぁて、次は…
[残された少女の顔を見て、目を細める。]