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[声が返りヘイノに招かれる事はあっただろうか、膝上に置いた悴む手が服を握る。中へ招かれたとしても、首を横に振りすぐ長老のテントへ向かう事を添えたし、中から返事がなくとも口を開いた]
トナカイに託された届け物の中身を拝見しました。
記された内容は僕には読めませんでしたが…
読める方はアルマウェルの潔白を記してあると。
…………
僕にわかったのはあそこに残る香りだけです。
[香りを嗅いで彼を思い出したのは、普段から草木を扱うために、匂いにはそれなりに敏感だからかも知れず。得られる答えは何かあるだろうかと、眼鏡の奥の瞳を細めた]
―村の中―
[じゃらり、杖を鳴らしながら歩く。
途中、トナカイとともに歩むアルマウェルの姿を見かけたが声を掛けることはせず。
暫し、村の中を見て回った後、冷えた体を温めようと、自宅へと戻る道を歩き出す。]
[薄い唇からこぼれる小唄は朱と遠吠えと重なり合う。姉と呼ぶ人を瞳に止めると、にこりと笑い歓迎の意を述べようとした刹那
鋭く名を呼ばれ、頬への音に目を文字通り見開いて]
………!
姉、様……
[瞳が問うのは驚きと僅かな別の……]
知れ渡り彼の身が危険に晒されるのか。
貴方は本当にまじないが出来るのか。
………どれも可能性でしかありません。
[訥々と紡ぎ、寒さにだけでなく震える手を握る。口からも震える息が零れそうになり、引き結ぶ。]
でももし貴方が真を語るまじない師なら次は…
潔白だと公言して危険に晒すのも。
真実を暴いて糾弾する事になるのも。
こわい人を見て頂きたいです。
あの場ですら…―――軽口を叩き合える方とか。
[誰と個人の名は紡がずも、長老のテントで軽口を叩きあっていた者とは知れよう。ふと気は緩めずとも、どこか力の抜ける呼気を零す]
実際には…
僕が個人的にこわいだけかも知れませんね。
[自嘲の響きはなくも、ぽつりと零す囁きは告白めく。彼と言葉を交わす事があれば暫くはとどまるもあっただろうか―――話し終えればきた道へ一度は振り返る]
お邪魔しました。
― 自宅 ―
[短い時間――それでも束の間休息を得て、目を開く。
酔ったわけではない――あれくらいでは酔わない。
今は、酔えない。]
あいつ、どーしたかな……
[ぼんやりとした頭で呟き、毛布を落として立ち上がると、左腕を捻ってみる。]
まあ、つかまれでもしなきゃ大丈夫だろ。
……今は痛みがあるくらいがちょうどいい。
[正体を隠す――まともに消毒も出来ないけれど、切る場所くらいは選んでいるから。
鏡を元の埃っぽい棚へと適当に戻し、上着を着込んで外へ]
…………
もし貴方がまじない師なら…
覚悟も心労も山ほどおありでしょう。
僕はとても失礼な事になる。
………非礼のお詫びが出来る事を願います。
[たいした事は出来ませんがと添え、振り返らず訥々と零して、車椅子はもう止まらずに動き出す。キィキィキィキィ…―――誰が集まるともわからずも、長老のテントへと向かい]
―― 戻りきたイェンニを捕らえて ――
[叩く間際のその頬が、此方へ向けられる笑みで
あったから、蛇使いは僅かに苛立ちを浮かべる。
厳寒の中、てのひらへも痛みは遅れてやってくる。
目を見開いたイェンニを薮睨みめいて見詰め――]
この地で、火遊びは禁忌だと言ったろう。
[ふ、と妹分を見遣る眼差しは甘く詰る態に緩む。
イェンニが鬼火めく焔持つほうの手首を掴むと、
遠慮のない力でぐいと引き寄せ彼女を抱き締め…]
それに。
アドベントの最後の夜は、一緒に
ユール祭をしようと約束したろ、ばか。
[ユール――…この地で言うクリスマス。]
こんなときだから――約は忘れてほしくないのに。
[其れは、未だことが起こらぬ折の、他愛無い予定。
繋ぎ止めるようにイェンニの額へ己の額を寄せた。]
……
[レイヨに話された内容を胸のうちで反芻しながら。
男とトナカイはやがて長老のテントに辿り着く。トナカイはテントの前で止まった。それを見ると男は入り口の幕を上げ、マティアスを一瞥してから、長老に向き]
長老。
荷が届いています。
[背後のトナカイを示すように振り向き、そう告げた。指示されて荷を取ると、改めてテントの中に入り]
[気乗りはせぬも書簡の行方が気になったか足は長老のテントへ向きかけ――ビャルネを見つけて暫し留まり]
すぐ、わかるな――その音。
[近くなくも遠くない距離からかける声。]
帰りか?
[歩む方向を見て、特に意味もなく問いを置く。]
村はいま、悼むときだけれど――
[祝う言葉は、流石に憚ってちいさい声音。
いつ命を落としてもおかしくはない今だから]
…ヒュヴァ・ヨウルア… イェンニ。
[…"メリークリスマス"。笑まぬ面持ちは、
常に夢裡の如き妹分の伏し目へと告げた。]
…今宵も、誰かが死ぬぞ。
こんな時にまで禁忌とか、何の意味があるのかしら。知らないわ。
火があったら狼は来ないわ?禁忌に守って貰ってるのも皮肉なこと
お祭りは楽しみよ。約束も勿論。
でももっと楽しそうなこと、ありそうで。
[じゃらり、杖を鳴らしながら歩く途中。
離れた場所から掛けられる声にゆるり、と足を止める。]
名乗らずにすむから、重宝しとるよ。
[問いには頷きを返し。]
お主はどこかに行くところかの?
[一つ、二つ、白い雪の上に足跡をきざみながらカウコへと近づいていく。]
[遠吠えが聞こえずとも、空は赤い。
それほどの凶兆が出ているのも無関係に
寛ぐ様子のトナカイの背を撫でる。
一仕事終えたばかりだが心が休まるわけでもなく]
まったく。
どうしたモンかねえ。
[祝いの言葉に春風のような笑みを浮かべ、同じ言葉を返す。ぎゅ、と一度子供のように抱き着いて]
姉様は潔癖なんですってね。嘘でも本当でも、それが私への贈り物だわ。
…今宵?誰か?
どうしてそんなこと知っていらっしゃるの。
姉様、誰が死ぬとお思い?
[死ぬ、と断言した言の葉に瞳を向けて]
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