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……
[逆さ吊りにされた格好で身動きも出来ず、
喉から鉄パイプを生やした瀕死の運転手は
鉄パイプの先から垂れる胃液で、
何度目かの「ころして」を書いた後――
軽業師が撒き直した砂の上に何かを書く。]
…
( ― ありがと ― )
[知覚されるか解らぬ手話を運転手の腹へ
軽く綴って。脾臓へ触れるだけの状態で
刺しておいたクレーン車のエンジンキーを
――――押し込んで、捻った。――――]
[ずしゃり、
銃痕刻まれた壁に片手をついて、身を支える。
男の片足は、引き摺るほどの長さもない。
息は上がるが、熱を極力逃すまいと馬銜を噛む。
炉の火が落ちたはさいわいで、
傷口のコールタールは固まりだし…
大規模な追跡を受けずに済んでいる。
――相手取るのは、]
( ― 『カレワラ』… ― )
[静かな場にこそ伏せられた、罠と其の*仕手*。]
[もう走れないクレーン車のキャビンから
引き抜かれ持ち去られたシガーライター。
吊るされた肉塊の身元は推測でしかない。
雨水貯蔵タンクの脚部を引き倒した直後に、
行方知れずとなった運転手と思われること。]
[待ち伏せした者の腕を折って火炎瓶を奪う。
火種を抜き取り、粗悪灯油を飲み干して――
火布の端から垂れるしずくまで惜しそうに
舌へ受けた男が、火種ごと其れを喰ったこと。
14人の同行者を失った報告者の肩には、
連結弾帯でなく仲間の腸が斜にかかる。]
[黒い翼で慈悲かける翼人の報告は
果たして『カレワラ』のもとへ届くか。
其の人が両手に掬い上げた蠢く「何か」、
持ち主が斯く成り果てた顛末の全ては。
街で散見された蛇が戻っていった先、
宿に部屋を取っていた筈の娼婦の行方は。
様々に紛れ、カウコへと齎される報は
――――少しずつ数を減らしていく*。]
[其れは、生傷の裡へ手を突っ込み
五指の先滑らせて撫でさするような。]
どこが、 …痛い?…
[探り当てられたのは、己か、双子の刺客か*]
[コン、コン――
単純かつ常識的なノックが二度。
隠れ得ぬ匂い、クレオソートの刺激臭。
身に染み付いた其れは、真の毒を隠す*。]
ふう ゥ…
ああ、
[深く、呼吸。喉鳴りはしない。]
[―――直後、ひるがえす長身は]
[カツン]
こんばん はァ ?
[双子の好む無着味のポップコーンの如く、
一度床を弾き――カウコの目前まで疾走した。]
[風圧は軽業師に遅れてやってくる。]
脇を抜かれた双子の面持ちは如何か――
振りかぶる片腕、五指は掴むかたち*。]
[鼻先をつき合わせる紙一重、永遠が過る。]
… 痛かった、 よ ?
[瞬くひと駆けの終わり、僅かな対空時間――]
[掴みかかる手より、真上への腕がより疾い。]
[体ごとの旋風めいて襲い来る斧の刃を横殴る。
ゴ、と弾かれる斧身が傾いて降り注ぐ銃弾を弾く。
――跳弾の幾つかは、部屋中に火花を散らす――
掴まされる「鞘」へ、ずぶり 沈む五指は
其処から伸びる柄につながる刃をも掴んで。
軽業師の男は、抜いてもいいよとばかりに
刹那、薄うい笑みを広げた*]
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