―― 深夜/町外れの森 ――
[一度は宿に帰って、奥の自室で休むふりをした。
それからそっと、気づかれぬように窓から外へと出て――ドロテアの匂いをおって今、森へとやってきた。]
――あーあ……せめて家に居てくれたら、あきらめたのに……
町の人には手を掛けたくなかったのになあ……
[暗い森の中でも、はっきりと見える視界にはおびえたように、けれど何かを探すように森を歩く少女の姿。]
まあ、しょうがないよね……
俺も生きなきゃいけないし……ほかの人を食べるぐらいなら騒ぎすぎたドロテアを食べるほうが、俺もらくだし。
[言い訳のように――いや実際見知った少女を襲うことへの言い訳を自分自身へと呟きながら、ゆっくりと少女が見たという大きな狼へと変じる。]
[金色の毛並みの大きな狼は、ゆっくりと少女へと近づく。
狼を見つけたドロテアが、「やっぱりいいた!」と叫ぶのと、牙をむいた狼がドロテアに飛び掛るのが同時だった。]
ごめんね、ドロテア。
俺のご飯になって。
[謝る声はドロテアにはうなり声にしか聞こえない。
肩をえぐられた傷みに、流れた赤い色に、少女が悲鳴を上げて逃げようとするのを許さずに、その喉笛を食いちぎり。
あとは暫し食事に没頭して――]
[ひとしきりむさぼって、満足して口を離しても。
ドロテアの姿はドロテアとして確認できるほどで。]
――まあ、いいか……
[今まで、よその村の人間を食べても感じなかった重苦しい思いをわずかに抱えながら血に濡れた口元をぬぐい。
森の奥の泉へと姿を消した。*]
―― 朝/自室 ――
[昨日はペッカの家にいったあと、町をぶらぶらしてから夕方ぐらいに宿へともどってきていた。
それからあれこれと手伝い、自室に戻って――起きたのが今という。]
うわあ……
[寝すぎだと、父親に怒られて頭を抱えながらもそもそと支度をして、宿の一階へとでていくのだった。]
―― 宿の一階 ――
[あれこれと用事を済まして居るときに、どこかざわついた空気を感じて周囲を見る。
いつも来る人たちのうちの何人かが、どこか思案げな顔をして、昨夜からドロテアの姿が見えない、と呟いていた。]
――
[それを聞いて、一瞬手を止める。
僅かに息をついてから、暫し考えるように首をかしげ――]
まあ……昨日も顔を見てないし、探しに行くべきかなあ……
[どうしようかと、悩む素振りで手にしたモップの柄に顎を乗せた。]
―― 町の通り ――
[どうしようかと迷って居るうちにざわめきが大きくなる。
嘆きの悲鳴が聞こえ――、外へと出てみたものは、森からやってきた葬列だった。]
……まじかよ……
[ドロテアが、人狼が。
復讐を。
口々にいう人々の声が聞こえる中。
ゆっくりと近づいていけばペッカの姿が見える。]
――……
[その姿に声を掛けることはできず、ただ僅かに瞳を伏せて。
その視線の先、亡骸が握った金色の獣毛がいやに目に付いた。]
[ドロテアの葬列は生家へと向かい。
そしてドロテアの日記を見つけた人が、疑わしきものの名を声高に呼ばわる。
その中にはベルンハードの名も含まれて。]
えー……
[疑われて心外だというように眉をひそめ。
ウルスラやペッカ、ラウリにアイノの名前まで呼ばれればさらになんで疑われるんだと、憤慨する。]
疑わしきは罰せよじゃねーだろお……
[しかし日記を手にしたドロテアの父は、暗く澱んだ瞳のまま。
『違うというのなら、人狼を、娘を殺した者を差し出せ』
ただ、呪詛のごとく、呟くのみだった。]
……うわあ、一番やな展開……
[ぼそりと呟きながら、呆然とするウルスラや、証拠がどうこう言うラウリを見る。]
この町の森の狼はふつう町の近くに出てこないし、人も襲わないんだよね……
ほかに食べる動物がいるから――
[狙われるのも、人間じゃなくて町で飼ってる家畜だったりするのだから、人間が狼に襲われることなど、ほとんどないと、告げる。]
そうだよ、それに俺達のなかに人狼がいるって決まったわけでもないだろう。
[ペッカ>>24に追従するように頷きながら訴え。]
それに人狼はもう逃げたかもしれないじゃないか。
間違った人を殺してしまったら、どうするんだよ。
[ラウリへと言葉を向けるペッカの姿を横目に、町の人たちに訴えてみる。
けれど、ドロテアの復讐を求める人たちには届かず、いらいらと髪をかきむしる羽目になるだけだった。]
[はぁ、と僅かに吐息をこぼす。]
いったい、どうしろってんだよ……
[アイノがやってきたのを見る。
ペッカやウルスラ、ラウリへと視線を移して、もういちどため息をついた。]
俺らの中に犯人が居なかったら住人全員殺していく羽目になるぞ。
それでも――
[『やる』とドロテアの父親の声が重なれば顔を蹙めた。]
くそう。
結局誰かを生贄に差し出せってことだろ。
それで他の誰かが襲われてたりしたら、また別の奴ってことだろ。
[おわりが見えない凶行じゃないか、とはき捨てる。
ペッカとアイノ、ラウリのやり取りも聞いてはいるけれど、そちらに反応できるだけの余裕もなく。
ただ――そう、ただ純粋に、町の人じゃないと言う理由だけでラウリはすでに不利だとは、思ってはいたのだった。]
俺だって、そうだよ……
[ウルスラに同意しながらも、けれど町の人たちはすでに誰かが犯人だと――その血を見なければ収まらない。
アイノとペッカの話に驚いたように瞬き。
そして――古びた望遠鏡に視線を向ける。
僅かに瞳を細めて。]
……そう、だよな。
せめて仇はうたないと……
[幼馴染>>49の言葉に小さく頷きながら、アイノ>>50へと視線を向け。]
あ、ああ……うん、そうだな、弔ってやらないと――
[けれど、町の人たちは疑わしいと名を上げられたものたちが弔いに参加するのを倦厭するようで――
そして、同じ金色と言うだけで怪しいと疑われてしまえば、なお、手を出すことができなくなった。]
あーもう……、今日は俺が独りにならなかったらいいんだろ?
じゃあアイノの言うとおり、みんなと一緒に居るさ。
[はぁ、と疲れたようなため息をつく。
それでも、疑わしい相手には死をと騒ぐ人も居る。]
だからってなあ、行き成り言われてはいそうですかって自分の命さす出す莫迦がどこにいるってんだよ!
[どれだけ騒いだって、疑心暗鬼におち入った人間には届くものも届かない。
誰かは必ず死ぬことになるような空気が町をおおって居る今、この場の誰かは、明日の朝日を見ることはないのだった。]
ほんとーになあ……
[ウルスラ>>57にしみじみとうなずく。
苛立ちと不安をにじませたラウリ>>55に視線を向け。]
――どっちにしろ、ここで話しててもどうしようもないし……
町の連中だって判断つかないだろうし、いったん宿に戻ろう?
[ウルスラやペッカ、左腕にくっついてるアイノ、それにラウリへと順番に視線を向けて問いかける。]
うーん……まあ、一晩ぐらいなら……
側に誰か居ても我慢できるけどなあ……
[逃げ出す、とまで言い出した少女をどうしようかと眺める。
もともとドロテアを食べたのだから、またしばらくの間は誰も食べなくても大丈夫なのだけれど。
はあ、と誰にも聞こえない声で、ただ、ため息をつくのだった。]
まあ……町の人たちの頭が冷えるまで、逃げるしかないかなあ……
[僅かにため息をつきながら同意する。
詳しいことは宿で話そうと、皆を促して。]
ドロテアが死んじゃったから……そう簡単に頭が冷えるとは思えないけど……
[小さく、口の中でだけ、呟いた**]